エステはエステルから?

2018年10月29日

例によって皆さんが見たくもないくらい長いのですが、恥ずかしいことを繰り返したり、あるいは無責任なデマを拡散したりしないために、ざっとでもよいので目を通してくださいね。
 
――「エステ」は旧約聖書の「エステル」に由来する。
 
初めて聞いたときにも仰天しましたが、改めて真顔でこう信じていること、また神学部でも普通に信じられていると聞いて、驚きを隠せませんでした。もしかして講義で誰かが言ったのではないかと案じますが、どうしてそういうことになってしまったのか、私はとりあえずGoogle検索に頼って見ました。というのは、以前にちょっとだけ調べたときにも、何の根拠もなしに、エステはエステル記でエステルが美容を施されたからだ、というのを見たことがあったからです。しかもその時見た限りでは、「だそうです」調のものが多かったので、おそらく誰かがネットに載せた記事を見て、ちょっといい話だ、とか、語源についてのレアな話だ、とか感じて、それをただ引用して拡散していっただけではないか、と想像しました。
 
そもそも「エステ」はエステティック(ドイツ語ならエステティーク、これはカントの『判断力批判』の中でも大きな役割を果たす語です)の日本的な略称に過ぎず(エステティックサロンというでしょ)、その意味は英語なら「美的」しかまず考えられません。「外科」のような語がついて初めて「美容」と訳す場合がある程度で、この語を「美容」と一般的に訳すことは不可能です。
 
今回、期間を制限して検索を繰り返すなどし、また記事の掲載日時を辿ることで、誰がどう検索して引用拡散したか、そのあたりを追いかけてみることにしました。もちろん、すべて検索を網羅した訳ではないし、あまりにばかばかしくてここには紹介しなかったものもあります。
 
なお、そんなのが本当にあるのか、とお思いになった場合は、確認できますように、URLを記しておきました。但し、くりっくでつながるようにはしていませんので、ご面倒ですが、ご確認の際にはその部分をコピー・ペーストしてお訪ねください。そして括弧内は私の注釈です。


2005年9月25日掲載記事
【聖書】エステル記4章16節
【説教】「死ぬべくば死ぬべし」
エステルとは現在女性に人気のあるエステの語源です。美しい王妃の名です。
(ある教会の説教の要約の中にこう書いてあります)

http://teketeke.jp/syuho/2005/050925.htm


2007年1月6日掲載記事
〔エステル記〕エステの語源になったエステルの美貌による超セレブな出世と、命と美貌をはった、ユダヤ民族救済の物語です。
(ここから物語が面白おかしく紹介され、途中で次の文が入る)
応募者は王宮出入りの美容師が6ヶ月をかけて、美女を更に美女につくり上げます。
体形の整形、肌の基礎づくり、化粧の仕方、メイク、話し方、挨拶、全てです。
これに6ヶ月をかけます。これがエステの語源と言われています。

ttp://blog.livedoor.jp/marpy2/archives/50670897.html


2007年9月20日掲載記事
エステはエステル・・?
昨日は教会の祈祷会でした!
祈祷会はエステル記の話だったのですが、そこで疑問が一つ...。
エステの語源はエステルなのだろうか・・?
すると、一人の姉妹は「私はそう思っていた」と言った。
気になった僕は、帰宅後に”エステル、エステティック、聖書”
の3つのキーワードで検索をしてみたら、
個人Blogでしたが、「エステはエステル記が語源らしい」
という書き込みがされていた。
これは本当なのだろうか??

コメント
そうなんですか?!
エステはエステティックの略だと思ってました。
エステル(Esther)は、「星」って言う意味ですよね?

コメント
おはよう!これ、少しネットで調べたけど、ESTHERがESTHETICの語源だ、ってはっきりとした情報は今のところなし。
英語のESTHETICという意味は、何が美しいかを言付ける哲学から来ているみたい。
ん~。完璧な裏づけはないね。。
私は、クリスチャンになりたての頃、当時のディサイプラーに確か、エステはエステルから来てる、と教わったんだなぁ。。
そっかー!とエステに行くことは全くguiltyには感じない私を培ってくれたから、ま、いっかー!

http://hidekumaks.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_6f0c.html


2010年3月4日のコメント
聖書の女性50人【エステル】
(この記事に付けられたコメントの始まりに次のようなものがある)
エステの語源がエステルだと聞き、体を磨くことが、なんだかこの話の「ビジュアル的な」中心のように思えます。

https://blogs.yahoo.co.jp/sollupo2000/4997713.html


2013年4月3日掲載記事
【エステ】という言葉自体、聖書の『エステル記』に出てくる玉の輿になったお姫様の名前からも由来し、またモデルという言葉の由来も、このエステル記を読んでいると、だんだん意味が分かってきたのでした。

https://www.freeml.com/bl/10780553/158617/


2013年8月12日掲載記事
先日、近所のマダムが『エステの語源は聖書かもよ』って言ってたわ。
検索すると……(略)
語源については不明のまま。
そこで聖書に「エステル記」ってのがある。(以下URL)

調べてみたら…
紀元前400〜500年前の王妃の名が「エステル」
想像のとおり美人らしい。
智恵もあり、やたらめったら「おしゃべり」はせず、
時を待ち「その時」にって時に話す聡明な女性。
「聡明」「智恵」って言葉、なつかしくていいですね。
「でしゃばらない」って耳に痛いですわ。
内容に香油でマッサージってところが出てくるので、
まんざら近所のマダムの言ってることも当たってるかもね。
エステル王妃か…

https://plaza.rakuten.co.jp/elualomi/diary/201308120000/


2014年3月20日掲載記事
エステティックの語源は実はペルシャ大王の妃となったエステルだそうです。
(以下、エステル記のあらすじが書かれただけ)

http://n-c-creation.sakura.ne.jp/esuteru2.html


2014年9月9日掲載記事
●エステの語源をご存知でしょうか?
「みなさん、エステの語源をご存知でしょうか?」という明るい第一声から始まった講演会。エステの語源はペルシャ大王の妃となった「エステル」にあり、王の許に嫁ぐまでの1年間のケアがエステと呼ばれるようになりました(旧約聖書のエステル記2:12)。私は、これまで100人の方の顔を借りてフェイシャルエステをさせていただきました。エステを通して、大好きなイエス様のことをお伝えできたとありがたく思っています。

http://vip-kansai.jugem.jp/?eid=68


2014年12月8日掲載記事
王妃エステルはエステの語源?!
(エステル記のあらすじを示す途中に括弧付けで次の文がある。
エステティックの語源はエステルからと言われます。

https://ameblo.jp/harry-shin/entry-11962530589.html


2015年10月12日掲載記事
◆美女香る ?エステの元祖?
(エステル記のあらすじの紹介の中に挿入されるフレーズ)
――いわゆる美容の「エステティック」「エステ」の語源は、
ここから由来していると言われている。
化学の分野でも、果実臭のするエステル化合物というのがあるが、
(一般的には、ポリエステル、のエステルといえばわかるかしら)
これも彼女の逸話からきているのだろうか?
ドイツの化学者レオポルト・グメリン(Leopold Gmelin、1788?1853)が名付け親だそうだが、
グメリンがどういう理由で命名したかまでは、軽く調べた程度ではわからなかった。

http://yamami.officialblog.jp/archives/%E2%97%86%E7%BE%8E%E5%A5%B3%E9%A6%99%E3%82%8B%E3%80%80%E3%80%9C%E3%82%A8%E3%82%B9%E3%83%86%E3%81%AE%E5%85%83%E7%A5%96%EF%BC%9F.html


2015年12月24日掲載記事(エステティシャンによる)

エステの語源と言われる「エステル」は、ペルシャのアルシュエロス王の奥様
ユダヤ人を滅ぼそうとする企みを、命がけで阻止した女性

ttp://kuraseefu.com/blog/index_3.html


2016年3月9日・化粧品メーカーへの名前への提案一覧
「エステ」の名前の由来になっているエステル(エスター)が王妃選びのためにオイルマッサージを受けたという、古代ペルシャのシュシャン城から 名前をいただきました。

ttps://crowdworks.jp/public/jobs/545317/proposal_products?page=5


2018年5月9日掲載・旧約聖書アプリの宣伝の中で
最新バージョンでは、創世記の天地創造、バベルの塔、カインとアベル、アダムとイヴなどの解説と歴史的考証や少々の批判を追加掲載。
その他、長大な旧約聖書の中で、エステの語源となった王妃エステル伝やダビデ・ソロモンの治世をピックアップし歴史学的観点に立った解説を掲載しました。

https://appadvice.com/app/e6-97-a7-e7-b4-84-e8-81-96-e6-9b-b8-e5-85-a839-e6-9b-b8-e8-a6-81-e7-b4-84-e4-bb-98-e3-83-80-e3-82-a4-e3-82-b8-e3-82-a7-e3-82-b9-e3-83-88/350385285


2018年5月12日掲載記事
エステの語源「エステル記」

エステの語源は、旧約聖書にある歴史物語「エステル記」の主人公エステルからきています。
(この後長く、エステル記の物語が紹介されて最後に次のように結んでいる)
普段何気なく使っている言葉の語源を調べてみると思いもよらない意味や
物語があって面白いですよ。

http://turquoise-patos.com/ester/


如何でしたでしょうか。
 
非常に地味な拡散ですが、案外、「この情報は自分だけが見つけた、これは使えるぞ」という心理によって、したり顔で話すというケースもありうると感じました。しかしどれひとつとして、「エステル」がどのように「エステ」になったのかを説明したり根拠を示そうとしたりしたものはありません。まして、「エステティック」の語の略がそれであることすら知らないような書き方をしているものも多く、恐らくすべてが「聞いた話」で書いていると推測されます。私が見た限り最初に、断定口調で説教要約に書いている教会の牧師に、ぜひその根拠をお聞きしたいものです。それがどこから分かったのか、と。
 
エステティックは本来aestheticと綴り、フランス語esthetiqueが元なのでしょうか。ドイツで「美学」を表す語として用いられ始めたときは、Aにウムラウト(上にある2つの点)が付き、「エ」の発音ですが、ウムラウトなしで書く場合には「Ae」と記します。
 
これもネットの中から知ったので、真実かどうかは定かでないという形でご紹介すると、エステティックの語は元来ギリシア語のαισθησισ(最終文字はsのような自体になる。なお、θはth)という語に由来します。日本語でないサイトは軒並みこの語の関係を結びつけていました。並べているサイトが恐らく数千はあるだろうと思われます。その語義は「認識」と普通訳されますが、「感覚」をも含むようなものでしたから、美的感覚の方に特化したときに、美学を表すものとして用いるようになった可能性があります。しかしこれは単なる推測ですので、ぜひご存じの方は教えて戴きたいと思います。
 
詳述はしませんが、エステルの名はペルシアの女神イシュタルのことであるという説がある一方、ペルシアの「星」の語から来ている、という説もありますが、こちらのほうはまだそれなりの背景に基づくものとして考慮すべきものだと言えましょう。



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