品位とは何か
2002年11月27日


 プロ野球Y球団のWというオーナーに対して、人間的に問題を感じます。
 K球団のN選手が実際にFAの権利を行使する以前から、「うちに来るのなら髪を黒くすることが唯一の条件だ」と、(だいたいY球団に行きたいなどと選手が口にしてもいないのに)野球とは関係ないことを言っていました。いつものわがままなおじさんの台詞ではありましたが、N選手に対して失礼なことをよくも公言するものだと思っていました。「来てください」の姿勢は微塵もなく、「金はいくらでも出すから来たいなら来い」と言いたげな高飛車な態度。
 しかし、Y球団は先に、同じリーグ最高の打者ともいえるP選手を獲得していました。さらに別のリーグ最高の打者と言ってもいいN選手を入団させることは、プロ野球全体にとってはマイナスにしかならないでしょう。しかしこのオーナー、FA宣言した選手の獲得についてルールを作ってはどうか(無闇に金で何人でも誘い込むようなことは問題だ)と口にした、D球団のO監督について、「どういう理由だ。そんなものを(オーナー会議に)あげてきても認めない」と批判しました。同様に、公平な選手の獲得についてのアイディアに対しても、「断じて許さん。そんなことになったら新リーグをつくる。おれが腹を決めたら6球団ぐらい集まるんだ」と吠えました。
 Wオーナーは、腹の中で、N選手を見下していました(理由は後述)。そこで、このような風当たりがあると、それを受けて今度は「H球団に決まればそれでいい」と発言しました。N選手は、H球団も欲しがっており、H球団にこうした強打者が来たほうが、Y球団に対抗してよいゲームができる、という声が周りに興ってきたのです。もっとも、オーナーの発言は、「(同じリーグの)H球団が強くならんと困る。敵に塩を送る必要がある」などと依然高飛車です。
 困ったのは、Y球団のD代表。懸命に与えられた仕事として、N選手の獲得のために誠実に交渉をしてきたのに、こんな発言があっては……。N選手は、自分にぜひ来てほしいということではないのか、と、オーナー発言の意味を尋ねました。当然です。金で人の気持ちを弄ぼうとしているようなものですから。D代表は、「真意は違う。球界のためにも、(大リーグでなく)日本に残って欲しいという意図だった」と苦しい説明をしなければならず、N選手自身も、その説明でいくらか気持ちが和らげられました。
 しかしWオーナーは、N選手について、こうも言っていました。「うちはPが来るんだから、土下座してまでおいで願わなくてもいい。うちのチームにはうちのカラーがある」
 もともと人に土下座をする気持ちなど、まったくない人だからこその台詞です。
 このオーナー、プロ野球のあらゆる名選手をコレクションするのが趣味だから、実力あるN選手もついでに、とでも考えたのでしょうか。D球団代表など現場は、やはりN選手がFAを宣言して、交渉ができるチャンスがあるのだから最大限にそれを利用しようと努力して、選手に対して失礼のないように、話をしていこうとしていたに違いありません。それに対して、後でWオーナー自身はこう口にしています。
「現場が欲しいと言うから黙ってきたが、本音で言えば、ああいうタイプの人間はいらない。うちのチームのカラーには合わない」
 これでは、球団で真面目に仕事をしている人たちをも、馬鹿にしていることになりませんか。
 そしてN選手をどのような目で見ているかは、このオーナーの次の発言で明確です。
「現場とフロントが欲しいと言うから黙っていたが、モヒカンや金髪はうちのチームのカラーに合わない。本音を言うと、ああいうタイプの人間はいらない。あんなのがうちのチームの4番や三塁手をやっていたら、子どもたちがまねをするじゃないか。いなくても勝つよ」
 好みがあることを否定はしません。髪を染めることが気に入らないという感情をけしからんと言うつもりはありません。このように、人々はWオーナーの発言を許さないという態度をとらないのに対して、なぜこのオーナーだけが、「金髪、モヒカンはいらない」とか、O監督の発言を認めないとか、言えるのでしょう。O監督の意見には反対だ、と言うべきであり、認めない、という言葉は、私なら口が裂けても言えないものです。そして、世の中の、髪を染めた人を一様に軽蔑するような内容が、なぜ偉そうに言えるのか、私には理解できません。そもそも、N選手にこれほど失礼な、屈辱的な言明があるでしょうか。人間として、なぜこんなひどいことが口にできるのか、分かりません。
 そして上の発言は、子どもたちをも馬鹿にしていませんか。私はむしろ、子どもたちが、Wオーナーのような考え方をまねするかもしれないことの方に、深刻な問題があると思います。
 
 さて、このWオーナーは、N選手の問題について、N選手の在籍するK球団に対しても軽蔑をしているらしいことが同時に判明しています。
 K球団が、消費者金融業のAと年間スポンサー契約を結びました。これは、F1のマシンに広告が載せられるように、野球の試合の中でも広告する機会を提供することで、いくらか出資してもらうというものです。Aはこのとき、その業界では最大手となっており、銀行が貸し渋りをする中で、停滞する日本経済を支える一つの役割を果たしていると認識されている企業です。事実、一週間ほど前には、日本経団連への加盟が認められています。K球団が、苦しい親企業と球団の経営のために、地元関西発祥のAの援助を受けることを、好ましくないと思うのは自由ですが、ことさらに罵る権利は誰にもないと思います。
 しかしWオーナーは、「サラ金はプロ野球のイメージにふさわしくない。東京ドームでは(金融業者の広告を)一切、許していない。ビジネスの自由もあり、仕方ないが、プロ野球の品位を汚す。そういう球団は滅びる。パ・リーグもつぶれるぞ」とコメントしたそうです。
 また、「そこまで堕落したのか。断じて許せない。そういう球団には出ていってもらうのが一番」と言い、それでも気が収まらないのか、「やるなら仕方ないが、それだけの報復はするよ。まあ、懲罰を加えなくちゃいかん」とまで言い放ったと伝えられています。
 聞きましたか。Aはサラ金であり、サラ金は品位を汚すそうです。そしてサラ金の広告をしたら、堕落なのだそうです。野球界から出て行かなければならないそうです。懲罰を加えなければならないそうです。Wという神が懲罰を加えるのだそうです。
 
 このWという人は、なぜか大相撲の横綱審議委員会の委員長をも務めています。
 この九州場所は、横綱大関をはじめ人気力士が次々と休場しました。満員御礼にも恵まれず、相撲界は今厳しい状況におかれています。しかし、モンゴル出身の新大関Aが、大活躍を見せました。満員御礼とは入場者が席数の95%に達したときに使われる言葉だそうですが、新大関Aの活躍により、あと一息で満員御礼、というところまではいったそうです。もしこの活躍がなければ、ますます寂しい場所となったことでしょう。大関Aが一人で九州場所を支えた、と言っても過言ではありません。
 名横綱でもあった、K理事長は、大関Aが13日目、あと二日を残してはやばやと優勝を決めたときに、このようにコメントしました。
「モンゴルから来て日本の相撲を覚え、24場所での優勝。大したものだ。下位相手に星を落とさない、という強さが出てきた。今の速い相撲を続ければもっと強くなる」
 その上で、来場所も優勝などすると次は横綱になれるとあって、こうも付け加えました。
「優勝でも12勝では軽い。次につながらない。横綱を狙うなら13、14勝してほしい。残り2日間、気を抜かないように頑張ってほしい」
 このとき、新大関Aは12勝1敗。たしかに優勝は決定したが、次のステップのために、残りの相撲を勝ってくれ、というわけです。あと二日、対戦相手は、不調とはいえ強い大関Tと、大関M。K理事長は、どちらかに一つ勝って13勝となってくれたら、次期の横綱になるに相応しいと言えるかも、という思いではなかったでしょうか。
 新大関Aは、そのことが分かっていました。普通なら、優勝を決めると、祝勝会があります。周囲のタニマチの方々が黙ってはいませんから、おつき合いででも、宴会に出なければなりません。一応、新大関Aは食事会には出ました。しかし、酒盛りには行きませんでした。まだ自分の相撲は終わっていないのだ、と。
 その精進の結果、大関Aは残りの相撲で2連勝しました。見事でした。最後まで気を抜かず、初心で臨み、自分の仕事をやり通しました。こうした精神力は、立派なものだと思います。新大関Aは、自分がこの九州場所を支えているという自覚があったのです。相撲人気を取り戻すには、ここで自分が圧倒的に勝って、強い力士が現れたことをアピールしなければならない、と自覚していたのです。
 さて、横綱審議委員長である例のWは、この新大関Aの優勝について、「非常に高く評価している」と述べました。そこでやめておけばよかったのですが、続けて、このようにも言ったのです。新大関Aの師匠である高砂親方に対して、「風格、品格を備えるよう教育して欲しい」と。このような言い方をすることは、異例だと新聞は報じています。
 意味が分かりません。相撲人気の衰えを止めたいという自覚をもって、誘いを断り相撲に邁進し、最近にない立派な成績を修め、今年の最多勝まで獲得した大関Aに「品格」がない、とWは言ったのです。もちろん「備えよ」とは、「今はない」という意味です。
 なぜ、そのようなことを言ったのかは明らかではありません。もしかすると、新大関Aがモンゴル出身だから、つまり日本民族ではないから、そんな言葉が出たのでしょうか。
  
 こうしたことから推測するに、Wは、髪を染めた人、刈り上げた人(そもそもN選手の話でなぜモヒカンが攻撃されなければならないのか理解できない)、金融業、外国人に対して、偏見をもっている可能性があります。
 人間だから、少しくらいの偏見はある、などと許される問題ではありません。忘れてはいけません。Wという人物は、「Y新聞グループ本社社長」です(Y新聞にそう書いてあります)。新聞社のトップが、偏見ともとれる内容を公言して憚らないのは、社会的にも問題です。
 この人物、K球団が懸命に球団経営をしようとしていることに対して「品位がない」と断罪し、大相撲を今回一人で支えた若い外国出身大関Aに対して「品格がない」と言いました。
 品位・品格がないのは、誰なのですか。


このページのトップへ→

パンダ          


つぶやきにもどります






 
inserted by FC2 system