本

『図解でよくわかる ドラッカー』

ホンとの本

『図解でよくわかる ドラッカー』
ドラッカー研究室
アスペクト
\599
2011.3.

 少し難解な思想にどういうわけか流行の兆しが見えると、その解説書が雨後の筍のようにどんどん出てくる。宝島社のノリのいい特集も複数にのぼり、そして各社もいろいろ出してきている。これもそのうちの一冊であるが、特徴は、これが文庫だということである。つまりは安価だということになる。
 ところが、読みやすく大きな活字で組まれている文庫となると、実質中身が限られているというより、とにかく少ないことは間違いない。ムック的な本の情報量の多さに比べると、微々たるものになる。価格の割合からすると安くてお得かどうかは疑問である。
 だが、それがまた強みになるかもしれない。というのは、難解なものをあれもこれもと詳しく書き並べられても、読者は混乱をするのが通常だからである。とにかく簡単にまとめるとどういうことなのか、できる限り簡潔な一言でのエッセンスが欲しい、というのも事実だからである。一言でまとめあげるとつまりどういうことになるか、実のところそれが欲しいケースは生活の中で度々あるはずだ。
 いわゆる「もしドラ」なる小説がこの流行に火を付けたのは事実であろう。そして今また、それがアニメ化されたことにより、ますます広くドラッカーへの関心がわき起こったのも事実であろう。
 少しばかり騒ぎすぎだという気がしないでもないが、そこに感じられるのは、時代の危機であるように思う。ドラッカーは、時代の変革の中で新しい経営を提唱した。この文庫には、ドラッカーの生い立ちも載せられている。これがいい。誰しも、その生い立ちや生育環境がその思想に大きな影響を与える。彼はかなりの幸運の中で育ったが、大いなる時代の変革を目の当たりにしてきた。適切な言葉であるかどうか知らないが、かつてのブルーカラー産業を規準に置いた経営の思想は、戦後、ホワイトカラーを想定した企業体制に基を置くのでなければ経営を考えられなくなっている。ドラッカーはこのIT全盛の時代の曙を晩年にしっかり見ている。その運命もおそらく彼の目には見えていたことだろう。
 それは、安易に能率や利潤に走るという考え方ではない。あくまでも「真摯さ」をベースにするものである。ひとりひとりの強みを生かすこと、そして変革を恐れないこと、つねに社会貢献のあり方を念頭に置くこと、そうしてその基本には真摯さが備わっていることが、時代をのりきる組織のあり方だと提言したのである。
 いろいろなビジネス書をあさってみるのもいい。だが、たいていのビジネス書の著者は、自分の成功談か、思いつきかに走りすぎている。経営哲学などとよく言われるが、日本の書店に氾濫しているビジネス書のどれほどが、「愛知」なる哲学の基礎をもっているのだろうか。もともと利益利益を目ざすばかりで、そもそも利益を目ざすとはどういうことか、そういう自分とは何ものなのか、ここを検討することなしに、目先の効果ばかり狙っているものが多すぎるように感じられる。自己啓発など、何をいまさら、である。
 ホワイトカラー充満の時代とドラッカーは見ているが、本当にそうなのか、という気もする。知識を以て仕事をしているのはそうかもしれないが、所詮歯車ばかりではないか、とも感じられるのである。だが、それであっても、経営者は違う。マネジメントを行うリーダーにとっては、人の強みを見抜き、顧客の満足を覚らなければならないのだ。
 ドラッカーそのものへの批判や疑問も多々あるだろう。だが、それは利用者がそれぞれに焼き直せばいい。多くのビジネスパーソンが、ドラッカーの言葉に刺激を受け、経営のヒントにしているのはまた事実である。また時代が変遷して、ドラッカーの規準がそのままには使えない時がくることでもあるだろう。そのときには、ドラッカーのイノベーションをまた新たなドラッカーが行えばいい。
 手近なハンドブックとして、こうした小さな本は存在価値がある。基本に返るということは、大切なことなのだ。




Takapan
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