本

『街でよく見かける雑草や野草のくらしがわかる本』

ホンとの本

『街でよく見かける雑草や野草のくらしがわかる本』
岩槻秀明
秀和システム
\1995
2009.4

 若い著者だが、フィールドワークはたっぷりという感じだ。草々の特徴を説明するに留まらず、それぞれがどんなふうに生きているのか、を明らかにする。「くらしがわかる本」と記されているが、「くらし」という語は、例えば英語でも、人生をも表すし、命をも表す。人格があるわけではないにしろ、野草たちを命あるものとして見ようという態度を示すことになるだろう。
 写真がふんだんにあり、ひとつの植物にもいろいろな角度からの写真が掲載されている。そしてそれぞれよい紙質の頁であるため、本はそれなりに厚く、重いものになった。欠点と言えば、ハンディに持ち歩きづらい点であろうか。
 道ばたの、名も知らぬ草花。春先にいっせいに現れるこの景色が私は好きだ。冬枯れの時期を越えて、春は緑も増えるし、花の彩りも鮮やかになる。野原を歩くのが楽しくなる季節である。できるだけそれらの草花を名前で呼んでやりたくなるわけだが、あまりにもいろいろあるので、なかなか覚えられない。だが、それらの草花の生態について、これほど詳しく伝えようと努めている図鑑も珍しいのではないか。これはもう、ハンディだとかどうだとかいう次元を越えて、貴重な資料である。これくらいの重さのものをカバンに詰めて、その辺りを歩くことくらい、なんでもなく思えてくるというのが、当然ではないだろうか、という気になる。
 ヤナギタデの項目に、「蓼食う虫も好き好き」のことがコラム的に書いてある。この諺について、私は初めて知ったと言ってもいい。今まで見たどの諺解説も、なんとなく表面上の意味説明で終わっていた。この本では、またその園芸品種としてのムラサキタデの写真もここに入っている。
 また、スズメノテッポウにも二種類あり、こうした亜種の見分け方が詳しく記されているのが、この図鑑の真骨頂ではないかとも思える。ただ、仕方がないことなのだが、この草での遊び方までがまとめてあると、私にとってはパーフェクトだったかもしれない。しかし、ここまで博物誌的にまとめあげた図鑑が、二十代の著者によって作られたことが頼もしい。今後の活躍が期待される。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system