本

『ヨーコさんの"言葉" わけがわからん』

ホンとの本

『ヨーコさんの"言葉" わけがわからん』
佐野洋子文・北村裕花絵
講談社
\1300+
2017.1.

 2010年に亡くなった、作家の佐野洋子さん。私はやはり『100万回生きたねこ』で知ったうちの一人だが、簡潔な言葉の背後に、何百倍にも膨らむ思いを呼び起こしてくれる絵本の魅力、へたをすると魔力というものを教えてもらった。そしてそこに自分を投入できる世界、自分が本当にねこになってしまう感覚、自分がそこに描かれているではないか、と思える時間をくれ、心にずっと遺るものをプレゼントしてくれる。
 絵本よろしく、短い言葉のエッセイが、読者の心を突き刺すもの、別の世界を見せてくれるものとして評判になっていく。何か特別なことが書かれているわけではない。ある意味では普通の風景だ。そう思うと、これを読んでどきりとする自分のほうが、いかに歪んでいるかが分かる。とくに私は男であるから、男というものはこんなふうに物を見ているが、女はこうなのだ、と淡々と告げられると、すっかり恥じ入ってしまう。たいていの場合男の考えは単純でバカなことが多いとは思っていたが、それをまざまざと突きつけられる思いがするわけだ。その具体的な有様は、本書で実際に触れてのお楽しみとさせて戴いたほうが絶対によいと思うので、ここでは明かさない。
 これは絵本である。大人の絵本である。文章だけの味わいもさることながら、このちょっとラフで一見いい加減なラインと色の絵が、文章の内容と実によく合っている。文章だけで想像させるというのが本来の持ち味であるのかもしれないが、読者はこの絵を見ることで、より瞬間的にそのメッセージを感じ取ることができる。それは安易なほうに流れてしまっていることなのかもしれない。しかし、私は必ずしもそうは思わない。この絵が、また奥深いと感じるからだ。この絵が情景を描くのだが、その絵の背景に、また自分の姿を見出すかのような深みを感じさせるのである。それは、絵の担当者の解釈であり想像であるかもしれない。が、その向こうにまた、元の作者の思いが拡がっていくように感じられてならないのである。
 実はこのシリーズ、何冊もあり、またEテレで2014年から放映されており、静止画の絵本をめくるようにこれが朗読されていく。非常に味がある。思わず魅せられ、惹きこまれていく。むしろ、それが本になっているのだということのほうを、私は知らなかった。  もしかすると、女性の多くは、なんだ当たり前すぎることが描かれてあるだけじゃないか、と思われるかもしれない。私は、男性にきっと読んでもらいたいと思った。妻はこのように夫を見ている、という視点にも気づかせてもらえる。男の論理というのが、なんと薄っぺらいものなのだという思いも与えられる。男が決めつける世界観が、なんと安っぽいものなのだろうと思わされる。少なくとも、私はそうだった。もちろん、ふだんからそのような視点を予感しているからこそ、そのように感じたのかもしれないから、本書を読んでも、依然として何ら態度を変えない男性もいるかもしれないが、そのあたりは、まあ個人レベルの相違となるだろう。
 心に刺さり、膨らんでいく。ありふれた言葉の並びが、こんなにも心を揺すぶる。若いころに、そんな歌に触れたことが私にもあるが、本書にはそんな魅力が、いや魔力が、ある。




Takapan
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