本

『国際比較にみる 世界の家族と子育て』

ホンとの本

『国際比較にみる 世界の家族と子育て』
牧野カツコ・渡辺秀樹・舩橋惠子・中野洋恵編著
ミネルヴァ書房
\2625
2010.4.

 多くの教授などの研究家の手による本である。執筆者の中には女性が多い。女性問題、女性教育としての分野からきていると言えるかもしれない。共同研究として、「家庭教育についての国際比較調査」を2005年に実施している。対象国は、日本・韓国・タイ・アメリカ・フランス・スウェーデンの六ヵ国である。子をもつ父母を合わせて1000人選び、調査している。そのアンケートそのものは、統計学的手法により適切になされていると見なしてよいだろう。その調査方法についても、巻末に公開してあるので、参考になる。
 そういうわけであるから、調査結果を時に数字で、時に帯グラフで表してあり、そこから様々な結論を導こうとしている、というのがこの本の大きな流れである。世界の家族と子育ての現状を明らかにし、また子育ての父母分担が大きな関心事となり、さらに父親と家族との関わりが問題視され、最後に子どもへの期待という概念でまとめている構成である。だから、やはり内容的には、父親たる男性が子どもにどう関わるかという点を調査したかったのだということが見え隠れする。
 また、各国の細かな事情は「コラム」という形でレポートされており、詳しい状況が読みとれる。ある意味で本文よりもここのほうが、読んでためになるような気がする。
 本文は12人で分担して書かれているのだが、ここでこの本の目的というものについて確認しておく。それは、「日本の家庭教育と子育て支援の活動や政策の発展に役立つこと」だと「はじめに」に書かれている。
 つまりは、一般の人が家族の問題や父親の家庭内の役割などについて考えようとする場合をこの本は想定していないのではないか、と思われる。早い話、読みにくいのである。統計グラフや表はいくつかあるが、写真は殆どない。唯一ある写真が、タイの学校の様子で、動物になる瞑想をする子どもたちなのだそうだ。どうしてこの一枚がそれほど必要であるのかもよく分からないが、とにかくこれが唯一の画像的資料である。
 こういうわけだから、一人の執筆による一章分がひとつの講演会のようなものであり、あるいは恐らく正確にいうと学会発表というものなのだろうが、その場合には、順序よく正確に適切に語られているという印象を与えるかもしれない。つまりは、これは学会発表の原稿なのである。調査資料をもとに、どこそこの国が何が何%、だからこの国とあの国とが数字が多い、というふうな、事実を事実として発表しようという空気が強い。そして、こうした学会というものが、強い断定をすると反論を招くという事態があるのかもしれないが、「〜といえるでしょう」「〜がみられました」調の、データ報告のようなものが延々と続く。甚だ目につくのは、「〜と思います」の多いことだ。中学生の発表ではないのだから、「思います」の羅列を見ると、「あなたはそう思うのですか。よかったですね」と突き放したくなってくる。極めつけは、自分がある人の言葉を「引用したいと思います」ときたことだ。そんなことは、したいと思わなくてもやってよろしいのである。こうした「引用」をすると際限がないのだが、「互いに学ぶことが多いように思います」などと言われても、そんなことは当たり前すぎて何の主張にもならず、何の発展性もないことしか言えないように感じられてならない。多様な分野で子育て支援が進むことが望まれます、というのが結論であるならば、これだけ大がかりな調査をしておきながら、なんと貧弱な成果ではないか。私だってそのくらいのことは言える。
 果たしてその調査で十分に背景が表現し尽くされているのだろうか。もちろん当事者は自信をもって、この調査は万全であるなどと胸を張るわけだが、アンケートや調査というものは、その言葉や誘導などで、答え方がいろいろと変わってくることは誰もが知るところである。その国の文化により、本音と建て前を使い分けることもあるし、文化的にこちらを答えてしまう心理がはたらく、というケースがあるかもしれない。どこの国とここの国とが同じくらいだとか、日本でこう答えた回答が最も多い、という報告が続くレポートで、いったい何が結論づけられるのか、また結論づけてよいのかどうか、その辺りも疑問が湧く。お金を出してもらって調査をしたので調査は万全でした、と言いたいように聞こえてしまうのはやっかみだろうか。
 それにしたって、だ。多くの学術補助金をもらって国際調査をしたのである。もっと、ここをこうしろ、こうあるべきだ、と提言してはどうか。今の政策では事態はよくならない、とはっきり言えばよいはずだ。そもそも「政策の発展」という言葉が怪しい。政策は改善されたり実現されたりするものであって、発展するものではないだろう。政治家は自分の選挙の票に関係あるようにしかこうしたデータは利用しないものである。政治家から活動費を与えられて楽しい研究ができたため、ありがたくてうれしくて感想文を書きましたので捧げます、ではもったいない話だと私は「思います」。




Takapan
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