本

『絵本とは何か』

ホンとの本

『絵本とは何か』
松井直
日本エディタースクール出版部
\2310
1973.12

 絵本論についてはもはや古典と呼ぶべきものかもしれない。そもそも絵本を論じるということにおける先駆けなのである。
 福音館書店に招かれて、それを築き上げる働きをなした著者。それは、キリスト教精神に基づいて、子どもたちによい本を、との願いをこめて事業を展開する会社となっていった。著者も、もちろんクリスチャンである。
 昭和の以前から、子どもたちのための本が生み出されていた。その辺りの事情と歴史をまとめて論じたものも、案外とないようである。それだけでも、この本の最後のほうでまとめてある記述は貴重である。
 それに加えて、前半の、保護者へ向けて、あるいは保育者へ向けての、絵本についての考え方を論じたものは、いっそう実践的である。そこにはどうしても、著者の好みが反映されていくものであるが、今日の絵本教育というものの基礎が出来上がっている。むしろ今ではそんなことを誰もが口にするようになったのだけれども、それを初期に言い放つのは、簡単なことではあるまい。
 そもそも絵本と子どもというのが、論じる価値があるものか、そして子どもの気持ちというものが、どうやって分かるというのか。著者は、3人のお子さんに絵本を読み聞かせていく中で、何かを感じながら、子どもと大人の捉え方の違いなどを認め、その実生活を通して、絵本に対する思いを確かなものにしていったという。それはよく分かる。実際に自分の子を膝に載せ、絵本を聞かせる経験無くして、絵本などを論じることは、不可能なのである。
 本の内容は、様々な小冊子などに記された原稿を集めたものである。すべて昭和四十年代。その時代に、絵本論というものが、日本において成熟しているとは言えなかったし、著者が言うには、日本での絵本というものが期待されているにしても、まだまだという時代でもあったらしい。
 おそらく、その後は日本でも目を見張るような絵本の成長が見られていることになるだろう。それ以前の時代であるだけに、今の状況とは合わない点があるかもしれないが、それだけに逆に、今の姿に惑わされずに、そもそもの原点を見つめる眼差しが得られるのではないか、とも思われる。
 時代が古いと軽視してはならない。どこから絵本が育てられたきたのか。それは案外、今も私たちが引きずっている問題であるかもしれないのだ。冒頭にあるように、「テレビが子どもを育てている」という批判は、実に40年前から、見抜かれていたのである。
 ひとつ面白かったのは、大正末期から昭和初期のことだと思うのだが、当時の保育の問題として、「都会の子ども達が、樹木や草の名をいかに入らないか」が挙げられていることだ。いつの時代も、そんなことを言われ続けているのであろうか。だとすれば、時代毎に、人間は絶え間なく自然から遠ざかっているようなことに、なりはしないだろうか。今の時代はもう、目も当てられぬとうことなのだろうか。
 幼児教育という分野は、見るべき人は見るが、一般的にはあまり省みられない。しかし、三つ子の魂百までとあるように、情緒的にも人間形成的にも、この時期の教育は、もっと注目されて言い。そのためのひとつの原点として、捉えておきたい本である。
 そこに、著者の祈りがこめられているだけに。




Takapan
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