本

『うさぎ島』

ホンとの本

『うさぎ島』
福田幸広写真
日本ナショナルグラフィック社
\1600+
2015.11.

 基本的に、写真集である。だが、ちょっとおふざけのように、写真にせりふを付けるかのように、頁に短いうさぎのせりふが施してある。これがまた、茶目っ気があり、本当にうさぎがそのように言っているんだよと説明されれば、きっと誰もが信じてしまうだろう、そういうぴったりの言葉なのである。もう頁をめくるたびに最後まで、キャーキャー叫んでしまいそうなうさぎたちの写真。幸せな気持ちになれること、間違いない。
 この「うさぎ島」というのは、瀬戸内海にある実際の島である。うさぎが繁殖し、近年そのことが評判になり、観光として成り立っている島であるという。私もいくらか前に、テレビでこのうさぎ島のことを知り、興味をもった。著者の写真家も、私と同じような思いであったのかもしれないが、この島に何度か渡り、こうして数々の傑作写真を撮るに至った。うさぎの目線で、つまり目の高さで、こんなにも多くの愛しい写真が撮れるものなのかと驚くばかりである。
 可愛い……それだけしか言えないのか、という気もするが、実際、可愛い。うさぎを好きになってしまうための要素が皆詰まっている。しかもここにいるうさぎは、愛玩用に特定の人間の手により育まれたというものではなく、島を自由に駆け回っているうさぎである。とはいえ、人間馴れしてしまい、野生と呼んでよいかは分からないのだが、狭い枠の中で暮らしているというものではない。そのうさぎの活動を追った写真である。だから洗練されてはいないかもしれないが、ある意味で元気、それに語弊があるとすれば、活発である。
 ただ、ここに人間が関与してくるということについて、問題が生じてくる。観察者人間は、無色透明な存在ではない。このうさぎたちに関わってくる。影響を与える。人間馴れというのもそうだろうが、もっと激しく深刻な問題があるという。それがこの写真集の中にも指摘されている。自分で飼えなくなったうさぎをこの島に連れてきて離す人がいるのだという。ここなら幸せに暮らせると思うのだろう。それがまずいことは、誰でも分かるだろう。あまつさえ、このうさぎ島からうさぎを連れて帰る人も現にいるのだとか。もう呆れるというほかない。人間の「ちょっとした」と自分では考えているにすぎないだろうが、とんでもない悪行である。エゴと言っても言い足りない、酷い行為である。
 この本は、そういう点を指摘するに留まる。ほんとうにこれは声を大にして知らせなければならないことであろう。だが、ここではあまり言及されていないが、この可愛いうさぎたちは、たんに可愛いという生活を送っているだけではない。それは生存競争の場である。生物の現実の生である。うさぎどうしの争いがあるし、傷つくうさぎもいる。私たちの言葉で言えば、いじめもある。その現実も理解した上で、うさぎたちを見るのでなければならない。みんな仲良く平和に暮らしましたとさ、では終わらない。
 可愛いうさぎたちに、私たちは、心の平安や癒しを求めるだろうが、うさぎはうさぎという生物であり社会を作っている。そのことも、忘れないでいたいと思う。
 その上で、可愛い、ともう一度言いたい。「会いに行けるしあわせ動物」というサブタイトルをかみしめつつ。




Takapan
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