本

『売れないのは誰のせい?』

ホンとの本

『売れないのは誰のせい?』
山本直人
新潮新書220
\714
2007.6

 サブタイトルが「最新マーケティング入門」という。こういう「最新」というのが扱いに困るわけで、発売当初はそれでよいものの、数ヶ月で「最新」ではなくなってしまう。もとより、数ヶ月以降売る気持ちがない本であるかもしれないのだが、読者は戸惑う。「最新版」という言い方は、後に虚偽となってしまうので、仕事の現場でも使うべきではないと考えるのだが。
 それはそうと、ありきたりのノウハウ本である場合と、広告業界についての経験と調査とをもとにみっちり記してある場合とある、このタイプの本の中でも、これはじっくり背後を読むことのできる、読み応えのあるものであったかと思う。
 そもそもマーケティングとは何かというレベルから話を始めるのも、その理由となる。また、ここから日本人そのものがどう変化しているか、購買側がどんな生活をしているかという視点がたえず問い直されている点からも、信頼のおける著作となっているかと思う。
 売り手の論理で通すということもしていないし、成功例を並べて、こうすればよい、などと軽薄に語るようなことの無意味も、十分承知している書きぶりである。そもそも広告はよかったが商品は売れなかったという実例を幾度も紹介し、その問題性をあぶり出していくという方法も、画期的と言えば画期的である。深い反省が随所にあるわけで、耳を傾ける価値があるのもそのためである。
 本の後半では、テレビ広告の意義が問い直されている。ほんとうにテレビ広告が有効であるのか、その検証は難しい。社会的事象は、簡単に実験による検証ができないからである。このテレビ広告についての考察がずいぶん多い印象があったので、これは私の提案だが、この本のタイトルやサブタイトルなどのどこかに、テレビ広告を問い直す、というふうな意味のフレーズを表に出してはどうだろう、と思う。この具体的な問いかけは、読者の興味を、より惹くような気がしてならないのだが。
 終章やあとがきも、実に人間味溢れるよい文章である。すぐれた著者だと思うので、この本ももっと売れてほしいものだと願う。少し調べてみると、著者は、受洗はしていないものの、クリスチャンの祖母をもち、著者自身もプロテスタント教会で結婚式を挙げている。この本にある視点というのに好感がもてたのも、なるほど、そのせいであったのかと納得している。




Takapan
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