本

『宇宙論入門』

ホンとの本

『宇宙論入門』
佐藤勝彦
岩波新書1161
\735
2008.11

 新書のよいところは、題名と内容との一致度が高い、ということのうちに見られることがある。そこへいくとこの本は、ガチガチの理論で、遊びの余裕のないものだということになる。伝えるべきことがあまりに多くて、遊ぶ自由度が少ないのである。
 殆ど冗談も入るゆとりがない。しかし、そのサブタイトルにあるように「誕生から未来へ」という、大きな宇宙のドラマを感じさせる、好著であった。
 私は、中学生のときに、この本のような世界に魅せられた。受験直前にやたら読んでいたというのだから、たちが悪い。さらに、高校を卒業して、進路を転換して本を読まなければいけなくなったころ、またこの宇宙の世界の話にのめりこむことがあった。クォークの世界も、意味不明ながら、魅力を感じて読んでいたものである。
 その意味で、この本は懐かしい気がするところもあった。しかし、話題はそのころよりもまた別の地平で説かれている。その後の新たな発見や理論の展開があり、超ひも理論などの基盤ができつつある。
 堅い本のように思われるかもしれないが、こうした最新の理論を、短い叙述でてきぱきと説明するのは、限りなく難しいものである。それを、この著者は、的確にやっているように感じる。さりげなくちらちらと説明するのが、実に的を射たものとなっているのだ。
 ビッグバンという言葉が人口に膾炙して久しいが、そこからのマイナス何十乗という短い時間の中で、宇宙がとんでもない発展を見せていくのを知るのは、愉快である。
 無からの創造というのが、物理学の態度である。しかし、そこに「神」を持ち出すことだけは、タブーとするのが、科学というものである。
 ところが読み進んで行くと、私などには、科学をつきつめていくとき、聖書の叙述といろいろ重なるものがあるように思えてきた。最新の宇宙論を視野に入れておきたいときには、この本一冊読んでおけばいい。これほど薄い新書の中で、ここまで説明できる人も、そういないだろうと思われる。
 さらに、読んでいて、個人的に痛感することも改めて見出した。ロマンを語るような星の世界を想像するのはまずい。できるだけ「神」を入れるなという科学者たちの示し合わせではあるが、結局「人間原理」の中に、宇宙が「人間が生まれるようにデザインされている」ことを感じる方向に進む最後のまとめのあたりなど、実に聖書の記述と重なって見えてくるものだと感動した。
 私には学力はなかったが、物理をよく研究して、宇宙の構造を考えたい、と思っていたことがあった。何ら現実的ではないけれど、この姿勢は案外、その後の私の歩みを殆ど決定づけるほどの意味のあるものであるように考えられる。
 私は、わくわくしながら、あるいはドキドキしながら、読んだ。誰もがそういう読み方のできる本であるかどうかは、私には分からないけれども。




Takapan
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