本

『竹中式マトリクス勉強法』

ホンとの本

『竹中式マトリクス勉強法』
竹中平蔵
幻冬舎
\997
2008.10

 小泉内閣において経済財政政策担当大臣あるいは金融担当大臣などと、その内閣の要を担当した民間人として有名である。執筆時には慶應義塾大学教授などの立場で活躍している。経済の本なら数多く出しているが、いわゆるノウハウあるいはここにあるように勉強法といったものは珍しいのではないかと思う。
 能力的に秀才であり続けたというよりも、かなりねちねちと努力を重ねてきた印象もあり、それだからこそ、どんな勉強をしてきたのか、ということが気にならないわけではない。そこに幻冬舎が目を付けた。出版に手間暇をかけずして、ネームバリューと宣伝の仕方次第で、大いに売りまくるというタイプだ。ノウハウ本らしく、要点を太くし色まで変えるという芸当を施したが、図版は稀である。章毎に著者の写真を交えているものの、本の殆ど全部は文章からできている、と言わざるをえない。
 肝腎のタイトルだが、私はよく理解できなかった。マトリクスとは何ぞや。カタカナ言葉を掲げれば有り難がるようなイメージから付けたのだろうか。なんのことはない、単なる手段か目的か、あるいは自己の能力を高めるのか、人とのつながりに役立つのか、これら2点で分類した計四つの象限それぞれに目標が異なるはずだから、それを意識しろ、というのである。これが、マトリクス(座標軸)式勉強法だという。
 ちょっと看板倒れではないだろうか。たしかに、目標の定め方とて、一時の手段として一定の成果を得たら終わりというものと、人生の中で求め続けていけるようなものと、区別するのは悪いことではない。しかし、「勉強法」というのは名ばかりで、その実、この分類によって目標に対する意識を変えよう、というだけのことであって、何も勉強の方法とまで言える代物ではなかった。
 あとは、経験上から言える、英語は暗誦せよだの、英語のうまい日本人の真似をせよだの、教訓やおおまかな理念のようなことが並べられるだけである。後半は、自分の政治家時代の経験を踏まえあるいはそれに基づくエピソードめいたものが並ぶばかり。前半のほうでも、自分のアメリカ留学の体験話が数多く展開し、後半でも経済相としての時代の経験話が盛りだくさんとなっている。勉強法はどこへ行ったのだろうか、というくらいだ。
 ビジネス街に並ぶ本として、サラリーマンが、こういうのは買わねばと思いがちなふうな本となっている。軽くて、読み進みやすい。通勤電車での往復で終わりそうだ。
 マトリクスに「座標軸」という解説が付いたのは最初のほうで一回だけであるし、それが目的を分類することのほか勉強法のどこに活かされるのか、ということなど、ついに一度も語られなかった。たぶん、出版社の編集者の売る公算とのかねあいで、タイトルだけちょっと人目を惹くようにしていたのかもしれない。
 自ら多くの業績を遺し、自分の勉強のためにいろいろなしうる人である。だが、その自分の勉強法や理念のことを的確に表現して、説明できるかというと、それはまた別問題なのであった。どうしても、自分の経済担当時代が中心となってしまう。それは面白い記事である。だが、これを呼んだサラリーマンが、即座に何か新しいことを始めることができるかというと、極めて怪しい。藁をも掴むような思いで本書を手にしたサラリーマンに対してどうこう言うつもりはないのだが、勉強のためのちょっとしたヒントや文具の使い方、といったテーマでは優れているにしても、慌てて答えを探しに行ってみようという人に対しては、ノウハウがすぐに全般的に分かるとうものではないということを、読者は気にしておいてもらわなければならないのだと思う。




Takapan
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