本

『小さいころに置いてきたもの』

ホンとの本

『小さいころに置いてきたもの』
黒柳徹子
新潮社
\1470
2009.9

 おなじみ、黒柳徹子さんのエッセイ集。小説新潮に掲載されてきたものを主にまとめたものである。そこには、何も幼少時の思い出話ばかりが書かれているわけではないから、タイトルはちょっと損をしているかもしれない。表紙は幼いときのご自分と弟の写真であろうか。そのエピソードについては中に書かれている。ひょっとすると、このことを一番聞いてほしくて、このタイトルにしたのだろうか。
 話題は多岐にわたる。もちろん思い出話が多い。それが望まれていたのだろう。また、ユニセフ大使としての経験とそこから人々に知ってほしいことが綴られているものもあった。また、最初のテレビ女優ということで、芸能界での面白いエピソードもあった。亡くなった方への哀悼の気持ちからそれを書いているものもあった。
 もちろんトークの味はトッププロである。往年の早口はさすがにこの近年影を潜めているが、それでも頭の回転の良さというか、応対の見事さについても、今なお群を抜く力をもっている方である。だが、文章もこんなに味があるとは、驚くばかりである。よくお喋りする方だからか、一段落が非常に長いという癖はある。あるいは、限られた頁数の中に収めるために段落を分けたくないという心理が働いているのかもしれない。真実の程は分からないが、それであっても、決して読みにくいなどということはない。もう、お見事である。
 時に読みながらこちらも涙をもらうときがあったり、もうどうしようもないななどと大笑いしてしまうことがあったりした。この本は、電車の中で読むときには要注意である。突然ワハハハと笑い始めるのは、変人に見られるに違いないからだ。とはいえ、本の内容は、まさにそういうことをやっている自分の姿をあからさまに書いてくださっているわけで、読むほうはたまらない。笑いながら涙まで出て来る始末である。
 あまりご自分では強くおっしゃらないが、聖書の神を信じておられたはずである。そのことがちらりと出てくる話もあったが、世界の子どもたちを、殊に傷つき死に瀕した子どもたちを、たんなる感傷ではなく、意志を以て愛し抜かれている姿勢は、聖書を知っている故にこそもてるものではないか、とまで密かに私は思っている。こう記すとクリスチャンが傲慢であるように見えるかもしれないが、要するに、その精神に通じるものを彼女がもっている、という意味である。
 トットちゃんについて中国で著作権無視の出版が横行しようとも、それについて怒りの思いなど微塵もお持ちではない。どうして送ってくださらないのかしら、と手に入るものだけでも自ら集めてまわるなど、無邪気としか言いようのない喜びようで、私は真似のできない態度であると言えるだろう。野球についてまるで知らないということでも有名であったが、イチローの試合を見に行ったレポートなど、少しでも野球をご存じの方なら抱腹絶倒というところだろう。パチンコについては私は知らないが、それでもここに書かれてあるほどの体験談が尋常ではないことくらいはよく分かる。
 そして、パンダを日本で最初に研究していた方であることでも有名である。そのことについても、幾度か触れてある。いや、それについての話題が少なすぎるくらいだ。徹子の部屋という番組でも、パンダの写真家をお呼びして、というケースがあったが、そうしたことについて、またいくらでも他に書いていらっしゃるのだろうと思い、この本についてはまあいろいろ書くべきことがあった、として私は我慢することにした。
 特にまとまりがあるとは言えないから、どこからでもお読みになるがいい。だが、可能ならこの順に読んでいけば、時間的に落ち着いた読み方ができるかもしれない。読んでよかった、と思える本のひとつである。それも、著者の人柄や人間性のなす業であろう。いい大人であるが、こんな少女に、男としてもどこか憧れてしまうような気さえするのだ。




Takapan
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