本

『寺よ、変われ』

ホンとの本

『寺よ、変われ』
高橋卓志
岩波新書1188
780\+
2009.5.

 発売当時気にしていたことは確かだが、ついに読まなかった。寺の話と教会とはやはり違うだろうと思い込んでいたのだ。だが、最近教会関係者の文章でこの本について少し触れてあるのを見て、読む価値があろうかと手を伸ばした。
 期待以上であった。なんのことはない。寺を教会と読み替えてよいし、実のところ寺を私と読み替えても有意義であることがよく分かった。
 臨済宗の副住職と2009年当時のプロフィールにはあるが、私の読んだ2018年には住職という肩書きである。出身大学である龍谷大学は浄土真宗本願寺派の僧侶の養成が中心であるから、そこでは史学を学んだという。その辺りの経緯や生い立ちについては、本書に詳しく書かれている。つまりは、人生経験の中で、変化を学んできたということであって、この本は単なる理論や口先だけの話ではない。人の死をショッキングに間近に受けつつ、中学生のときに受けたトラウマを引きずり、寺をよくしようと動けば人々の批判や罵声を浴び続けてきた人間による、寺の改革実践を伴う中での、提言なのである。
 内容をここでうっすらと辿るようなことは遠慮しておく。これは読者が直に辿り、心を揺さぶられて然るべきものであると思うからだ。
 本書の動機は「寺は死にかけている」との評論からだという。実際、寺院の減少は深刻であるし、檀家も離れていく。また、そもそも寺に関わろうとする人がいなくなっていく現状であっても、なんとなく大丈夫だなどという空気がないわけではない。葬式仏教などと揶揄されている間はまだよかったが、実のところ葬儀社全盛のこの時代、葬式さえ任されないようになってきている危機がもうここにあるという。それは寺と檀家並びに社会との間の信頼がなくなっているのだということで、ひとたびこれは信用ならないではないかという声が挙がってしまえば、一斉に寺のボイコットになっていく危険性を、もはやごまかしていくことはできないと言っているのである。
 著者には悪いが、キリスト教会に引きつけて少し感想を述べる。
 キリスト教会には檀家制度がない。全くの自由意志で教会に結びついている。もちろんクリスチャンの家庭の子は半ば強制的に結びついているというケースもあるが、それも自由意志で離れることがある。寺のように、墓という絆がないからである。キリスト教会でももちろん葬儀は行うが、墓による柵のようなものはない。むしろあるとすれば結婚式であろうか。しかし結婚式は一時的なものだし、それほどの絆しとはならない。まして離婚でもすれば、全く関係ないものとなる。その意味では、なんだかんだ言っても寺とはつながりがあるわけで、といった論理は成り立たないことになる。よほどキリスト教会のほうが危機的である。
 だのに、なんとなく年寄りクラブのようになっていく教会が、仲良しで安心できるわ、と満足しているという自体を案ずる声が、ようやく真摯に挙がってきたというのがこの半世紀であろうか。限界集落という言葉も現れたが、宗教に関しては、限界に来ているという見方が多々あるし、それはまた危機的とあまり思わない人々により打ち消されていくのが実情である。
 ましてキリスト教の場合、神に委ねること、神がなさる、それが信仰、といったことでうやむやにさせていくし、それを騒ぎ立てたほうが、不信仰のレッテルを貼られ、非聖書的だとして弾かれることさえあるのだから、問題の根が深い。
 しかしまた、問題を訴えるほうも、聞いてもらえないので次第にエスカレートしていき、暴言めいたものが多くなるとなると、せっかくのよい意見もよけいに反発を買うし、当人も霊的に衰えていき、本当に愛のない関係が蔓延することになってしまう。
 そこへ、本書の著者は、真摯に人の死を見つめ、助けることへと手を伸ばし、寺でイベントを開くなどして人の心を寺と結びつける努力を惜しまない。会計は明朗にして、公開する。いまの時代に当たり前の姿勢を、当たり前に実践しようとして、事実そうやっている。頭が下がる。
 その背後に、人のいのちへの心ある対応が満ちているから、私はなおさら惹かれる。いのち、それはキリスト教も仏教も同じ関心事であるはずである。歳を重ね往生した釈迦を仰ぐ仏教と、歳若くして刑死したキリストを仰ぐキリスト教とが、共に大切にしようと見つめるいのちに、いくらかの色合いの違いがあったとしても、慈悲であれアガペーであれ、愛の概念に属することを中心にいのちを考えることは、互いに参考にしてよい場面があるのではないかと思われる。
 もちろん、それは私個人の中でもそうである。
 寺よ、変われ。この「寺」をもっと広げて重ねて考えたい。そのために本書は、キリスト教界が注目していよい、いや注目しなければならない提言であると考えたい。




Takapan
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