本

『点子ちゃん』

ホンとの本

『点子ちゃん』
野田道子作
太田萌絵
毎日新聞社
\1365
2009.9

 お話である。ほのぼのとした絵が表紙から目を捉える。それにしても、タイトルが意味深である。「点子」とは人の名か。だが当然、これはあれのことだと思ったから私も手に取った。
 点字。つまり、この本の主人公の女の子は、視力障害があるのだ。
 と思いきや、語り手としての主人公は、男の子。上野一平君である。この子のクラスに、転校生として登場したのが、泉川カレン。アメリカから事情で日本に戻ってきた。この子が、点子ちゃんである。
 先生の名前からいろいろニックネームが面白く、教室の雰囲気にひきこまれていく。キャラクターが、生き生きとしている。目の見えない点子ちゃんに対して、ありきたりのお利口さんばかりではない。元来の好奇心いっぱいの子どもらしく、時に意地悪に、時に無神経に迫る。多分に、それは自然なのだ。本来特別視していないからこそ、そこらの普通のクラスメイトに対するように、傷つけるような言葉も平気で言うし、特別な意識で接することがない。それはまた、差別がないということでもある。
 そうだ。目が見えないから殊更に親切にしなければならないとか、思いやらなければならないとか、そんな決まりはないのだ。
 点子ちゃんを隣の席に迎えた上野君、そのナイーブな秘密と共に、点子ちゃんと時に連帯意識さえ有するようになる。ちょい役の点子のおじいちゃんが、不自然なほどに強烈だ。  ストーリーを全部紹介するのは忍びない。短いシーンの一つ一つにタイトルが付く形で短く区切られており、次々と場面を換えながら最後まであっという間に行ってしまう。すぐに読み通せるので、楽しく味わって戴きたい。
 どこかありきたりな、どこかあっさりしすぎのエンディングであるかもしれないが、ともすれば特別視してしまう、視力障害者のことを、ごく当然の子どもの一人として描ききったところが見事である。こういう扱い方こそ、バリアフリーの根本ではないかと気づかされた。何も、殊更に施設を建設することではない。特別扱いをすることではない。何の違いもない仲間として、普通に接すること。困っている友だちがいれば助けるという程度の意識で、自然に助けるというような間柄が流れていくとき、そこには壁が取り払われていると言えるだろう。
 児童文学というジャンルなのだと思うが、こうしたごく自然な扱い方をすることによって、障害者問題を捉えていくことが、本当は子どもたちへの教育として、一番大切なことなのではないか、と強く思わされた。




Takapan
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