本

『教師のしごと』

ホンとの本

『教師のしごと』
佐藤隆・山ア隆夫と25人の若い教師たち編
旬報社
\1575
2012.2.

 思い切った本である。これはクレームがついて、出版差し止めになるのではないか、と危惧する。
 サブタイトルは「泣いて、笑って、ちょっぴり元気」とある。その言葉への思い入れなども中に説明がしてある。そして、これはなかなか素敵だ。しかし、そこへ至るまでの道、つまり教育現場での出来事は、実に辛い。小学校の教師の現場における苦悩が、実にあからさまに書かれている。教職何年目とあるからこれらの人々は現職であり、その多くが実名で記されているので、その教師の体験談に関係した周囲の人々が、はっきり分かる仕組みになっていると思われるのだ。
 そこには、教師間の、「いじめ」や「パワハラ」が露骨に描かれている。だから、それをやった側からすれば、これはゆゆしき本となることが確かだと考えられるのである。
 忙しすぎる教師たち。ある部分で、モンスターなどと呼ばれる保護者もいる。そしてそれがマスコミにとり恰好の餌になったことがあり、一般に馬鹿な親が多いなどと思われるようになった。だが、それは必ずしも教師たちの悩みの大部分を占めるわけではない。この本を見ると、多くの場合、上司からの圧力や命令などにより、苦しんでいることが分かる。
 必ずしも、愚痴ばかりが載せられているわけではない。ほのぼのと温かなことも多く、教育現場における工夫や喜びなど、そしてまた、私生活での楽しみなど、教師というひとりの人間における等身大の視点がこの本にはあふれている。それがまた、サブタイトルの所以でもある。
 しかし、やはり強烈な印象を与えるのは、職員室の中でいかに理不尽なことが行われているか、である。どうしても、そこが際立ってしまう。この本を手に取った若い教師たちは、そうだと思うだろうし、自分だけではない、などとも思うだろう。しかし管理職や年長の教師たちは、悪者にされている自分たちを被害者だと思うかもしれない。そして一般の人が手に取ったら、学校というのはなんとひどいところだろうと感じるだろう。保護者たちが見ると、どうだろうか。いろいろあるだろう。学校の矛盾に憤るかもしれないが、できるならば、先生たちの苦悩を理解するほうにまわってほしい。それほどに、現場の教師たちは苦しんでいるのだ。忙しすぎるのだ。制度上の問題もあるだろうが、それにさらに輪を掛けて、保護者の側が苦しめるような「いじめ」をしてはいけないことを、知るとよいだろうと思う。必要なことは、共に子どもたちの成長のために役立つ環境をつくっていくことであり、また先生に対する協力の姿勢であろう。最高の理想を思い描き、それに足らない教師を罵るのではなく、基本は家庭であり、教師にある部分を任せるという考えからスタートすることである。
 教師もまた、経験を重ね、成長している一人の人間である。若い教師も、いずれ親となり保護者の立場になることにより、見えてくるものもあるだろう。保護者もまた、子どもをたくさん預かる側の立場を想像することが必要である。
 そんな、抽象的なことを大上段で口にすることができるのは、このように門外漢の私のような気楽な者である。この本にある教師たちは、いわば底辺部分で呻いている当事者である。そこから出てくる飾らない声がここにある。構えない態度がここにある。いわば、生の声を聞く機会となっている。貴重な本であるとも言えるから、できるならば問題視しないで、多くの人の目に触れればよい、とも思う。




Takapan
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