本

『多肉植物図鑑』

ホンとの本

『多肉植物図鑑』
松山美紗
日東書院
\1260
2012.8.

 植物にはしばしば癒しの効果があるとも聞く。動物もそれはあるが、人によっては、動物は気に障ることもあるというのだ。こちらの意思に反して行動する動物は、逆にそれに振り回されることもある、と。もちろんそれを面白いと思うからよいのであって、意外な反応をしてくれる動物に、大いに癒されうることは確かである。しかし植物は、こちらの気持ちをぶつけるばかりである。ただ黙ってそこにいる。これは精神療法の一つの形である。
 しかし、植物の世話は難しい場合がある。動物も当然そうなのだが、植物は、たくましくてどうやっていたも生き続けるタイプのものと、ほんの少しの世話抜きによってすぐに枯れてしまうようなものもある。動物のように瞬時に反応をしないものだから、その効果が悪かったと出たときには時すでに遅し、枯れる運命の坂を下り続けるばかりということにもなりかねない。
 私のように無知で、こまめに世話をすることのできないタイプの人間は、では植物の世話は無理なのか。そう思っていたら、ある時「多肉植物」なるものに出会った。これはいい、と思った。店員さんに尋ねると、水はめったにやっちゃだめだという。日に当てて、ただほうっておき、週に一度くらい少し水は垂らしてもいいが、などと言う。それは虹玉だった。先のほうが赤く色づいているのが可愛くて、そして世話が非常にぐうたら向きということで、四百円くらいしただろうか、購入した。
 楽な世話だった。そしてなかなかだめにはならなかった。マンションのベランダで、幾多の草木を枯らしてきた前科のある私は、多肉植物という、強靱な生命力の頼もしい仲間に出会ったのである。
 紹介が遅すぎるが、この本は、その多肉植物の図鑑と銘打ってある。学術的な図鑑をイメージするかもしれないが、これは多肉植物をディスプレイとして飾りアレンジするプロの手による本であった。学術的にどうだこうだと書かれているわけではない。育てるにあたり何に気をつければよいか、だけがコメントされている、と考えるとちょうどよい。それがまた、美しい魅力的な写真と共に、育て方が簡潔に書かれている。それから、アレンジメントにこそ著者の真骨頂があるようで、そんなふうにする手があったか、とわくわくさせるような記事がついていた。いわゆる「寄せ植え」のやり方が細かく写真付きで記されている。
 いやあ、それにしても美しい。そして魅惑的だ。多肉植物が129種この本には集められているというが、ほんとうに著者が愛しているのだということがよく分かる。写真も本当に巧い。引きこまれていくのを感じる。もう、ただ写真と解説を見ているだけで楽しくて時間が過ぎていく、という感じだ。また店で見かけたら、買ってみたいという気にすぐになる。百円均一の店で買った十二の爪は、一度何ヶ月も置き忘れてしまい、茶色になっており、見つけたときにはもうダメかと思ったが、その後見事に再生した。生きていたのだ。なんとたくましいものだと驚いた。今も元気に余生を送っている。
 地味な本だが、開いてみて心が現れていくような気持ちを覚える。そしてこの内容や写真でこの値段は、かなりお買い得だと思うのだ。多肉植物というものに関心が深い方はもちろん、それは何だ、と訊くような方も、一度手にとってみたら、その不思議な魅力にしばらく捕らえられてしまうのではないか、と私は思っている。




Takapan
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