本

『数の魔力』

ホンとの本

『数の魔力』
ルドルフ・シュタイナー
鈴木直訳
岩波書店
\2940
2010.5.

 まともに読もうとすると、かなり高度である。いや、行列式や微分方程式が並ぶなどという意味ではない。その、思想的な意義や歴史的な価値などの叙述と相俟って数字が紹介されることへの心構えのことである。原題は「数たちの巨大な影」のような感じであるが、邦題としてはやはり「数の魔力」のほうが数段良い。副題には元々、マタイ伝の「時のしるし」を想起させるような言葉があったともいう。訳者が巻末でそのようなことも解説している。日本語における副題は「数秘術から量子論まで」となっている。かなり堅いが、数についてのあらゆる歴史あるいは思想が関わってくるということの一つの象徴であるつもりだろう。
 章毎に紹介すると、まず「ピタゴラス 数と象徴」に始まり、「バッハ 数と音楽」と続く。こうして、デカルトだのライプニッツだのと偉人の名が並ぶ。かといって歴史順というわけでもなく、ラストを飾るのはパスカルである。その都度、数と○○というふうにテーマが定められる。構成の上でもナイスである。
 章のタイトルには出てこないが、最初のピタゴラスの話において、もちろんピタゴラスも取り上げられるのであるが、聖書が大きく取り上げられている。私はそこにひきこまれることになる。聖書に、数の上での象徴が多々あることは有名である。3が神の数字、4はこの世界の数字、これらの和である7と積である12とがまた神的な意味をもたらすという辺りが、その基礎であろうか。また、ユダヤにおける文字には、通常の文字であると共に、数字を表すための記号であることも知られている。これにより、言葉として並べられた人の名前の綴りに数を適用することができる。まあ日本でいえば漢字には画数がある、とでもいった様子に近いかもしれないが、この数が666になる憎むべき荒らす者が現れることを読者は悟れ、と黙示録になぞかけが書かれてあることも有名である。この根拠に基づき、聖書の中のなにげない数字に意味が関係してくるのだという。
 ヤコブの階段はシナイを表すのではないか。ヘブライ文字の22個あるこことに創世記の記述が関係しているのではないか。また、信仰の祖はアブラハム・イサク・ヤコブと並べられるのが常だが、かれらは順に175歳・180歳・147歳まで生きて寿命を全うしている。ところがこれらの数字は、順に7×5×5,5×6×6,3×7×7から成っている。これら三つの数の和はすべて17である。
 マタイの福音書の冒頭はキリストの系図であるが、区切りが14代毎に入れられている。ところがダビデの名は数的には14を表すようになっている。ダビデの子としてのメシヤをユダヤ的に証明しようとするマタイが、これに気づかぬ偶然でこうなっているとは思えない。
 また、ヨハネの福音書で、復活のキリストの下で153匹の魚が獲れている。この数は何か、いろいろ論議されていたが、思い込みの意味合いでなく数的に考えると、これがなかなか巧妙な数であることが分かる。つまり153という数をある計算式で求めようとする場合、次のような表し方ができるからである。1×1×1+5×5×5+3×3×3、あるいは1+1×2+1×2×3+1×2×3×4+1×2×3×4×5という奇妙なスタイル、しかしまた、1+2+3+……+15+16+17というのに著者は興味を示している。ここにも17が登場するではないか。この数は、ヘブライ語で「良い」を意味する語が同時に数として表すその数にほかならないのである。
 これだけでも十分楽しい。さらにバッハの音楽理論となると、元来のギリシアにおける音程の考え方から始まり、多少ややこしい計算が展開していく。するとバッハの曲には、先のマタイの14がちゃんと絡んでこだわって使われているし、音階にも当てはめられる数字から様々な秘密が読みとれる、ときている。バッハは平均律クラヴィーア曲を多くつくっているが、この平均率がどう平均化されて考えられたか、それは数的には微妙に狂いのある音階を提供することもあるが、どの調でも等しく演奏が可能だという意味では大きな発見でもあった。その辺りの数的根拠を、詳しく描いているところもあるから、数字にちょっと噛みついてみようかとお思いの方は、ぜひ楽しんで戴きたいと思う。
 注釈も索引も、なかなか親切で使いやすい。まことに美しい数は世界の創造にもつながるが、著者は何もそれを擁護しようとは考えていない。神を持ち出すことを極力避けようとして説明を施している。万物を数として見たピタゴラスと同じわけにはゆかないだろうが、確かに世界を神が甚だ良かったとして創造されたのであれば、この美しい数が意味をなさないはずがない。私たちも、少しばかり関心を見せていきたいものである。




Takapan
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