本

『数学で読み解くあなたの一日』

ホンとの本

『数学で読み解くあなたの一日』
ジェイソン・I・ブラウン
田淵健太訳
早川書房
\2100
2010.9.

 数字や数式に興味のない方には、とことんよそ事の本であるかもしれない。
 朝起きてから寝るまでを英語で表現する、などという英語学習は楽しいと言っても、朝起きてから寝るまでに出会う数字や計算を取り上げようとなると、尻込みしてしまうかもしれない。
 著者は数学者。だが、通常のイメージとは違う。エレキギターが大好きで、この本の最後でも、延々とビートルズの楽曲についての話が続く。そう。ピュタゴラスの名を出すまでもなく、音楽の理論は数字で支えられているのである。
 ちょっとした数字クイズに始まり、身近なレート換算の必要性に続く。説明は決して読者に媚びてはいない。しかし仕事で出会うグラフを知らないでは済まされないし、統計に無知であっては騙される可能性が高くなる。
 かと思えば日本の数独の楽しさが紹介され、宝くじなどの確率が取り出されると、もはやよそを向いてもいられない。事は地球温暖化にまで発展する。
 図形も忘れられない。缶詰の形はどうあるべきか。そんなことを取り上げてまた数字に戻るが、無限というのは果たして数字であると言えるのか。だがパスワードの決定はほぼ無限であるにも拘わらず、実際上限られたものしか用いないことを指摘して、私たちの全財産の管理にも目が向けられる。
 いやはや、もはや金目当てでなく、人類の理想なる美も数字に関わっていることを知ろう。そうして、ビートルズに届く。
 ざっと、こんな成り行きである。
 著者は最後に、数学に何ができるかを問うている。持ち出すのは、ゲーデルの不完全性の原理にまつわること。自己言及をするときに矛盾が生じる、あるいは、自己自身については証明できない、という点に触れる。数学には、証明できないものがある、ということだ。だから、数学はすべての問題の最終的な答えを出すことはできないのだろうと触れている。だから無意味なのではなくて、それを楽しむ旅がまだできるのだ、と微笑みつつ。
 そう。聖書には、証拠としては複数の証言が必要だとされている。自己自身による証言は無効である。だからこそ、イエスが父を証人としているとは言いながら、まるで自分で自分のことを証言したように見えたとき、ユダヤ人たちは怒り狂ったのだ。
 この本の著者が、数学では世界の問題の全貌解明ができないのではないか、と呟いたとき、私にはそのような聖書のエッセンスが目の前に現れてきたのであるが、その辺りは、ひとりひとりの読者の心によりまた違うことが起こるであろう。私は専門家ではないので、あやふやな読み方ではあるが、それでも中に書いてあることの何たるかを知る程度の知識は偶々持ち合わせている。この本は、お気軽で楽しいとは言っても、やはりある程度の数学の世界についての知識は必要であろうかと思う。その上で、世界の真理と日常生活との接点のようなものが楽しめるならば、なかなか知的な娯楽には違いないと言えるだろう。




Takapan
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