本

『知られざる色覚異常の真実』

ホンとの本

『知られざる色覚異常の真実』
市川一夫
幻冬舎
\1200+
2015.11.

 タイトルがちょっと怖い。内容として間違っているとは思わないが、内容はたぶん、もう少しソフトである。しかし、つまり、適切に、色覚異常について解説してある本であって、何もセンセーショナルなものではない。実に丁寧で、分かりやすい本だと思っている。
 というのは、私の身内に関係者がいて、それなりに調べたことがあるのだ。そして、どう困っているか、どう困るか、などについても見識を広め、世の中における不都合な部分に注目してきたし、またサイトのアクセシビリティについても関心をもってきた。そのようにある程度の知識があるからこそ言えるのかもしれないが、一読してたいへんすっきりと分かりやすく、しかもかなり専門的な深いところまで解説してあると思うのだ。もちろん、この理論のすべてを理解する必要はないし、色覚細胞の構造を誰もが気にするべきではないのかもしれない。だが、それが載せられているということがまずいという意味にはならないはずである。
 著者は眼科医であり、また優れた治療法の開発者でもあるようだ。いわば、色覚異常については知り尽くしたような人であるから、これを素人向けに解説するというのは、日頃治療の世界でも行っていることかもしれず、その意味でも説明やアドバイスとして有意義なものであることは間違いない。
 当事者はもちろんのこと、社会がこういうマイノリティを理解するための啓発のためにも、この本はお薦めできる。理論的に、色覚についての一般的な理解もできるし、そもそも年齢とともに自然にと言ってよいような形で色覚が劣化していくという事実なども、デザイナーのみならず、あらゆる階層の社会人にとり、無関心でいられない事実が指摘されているといえる。たとえば、電光掲示板の色や信号の見え方についても、たんに年齢を加えただけで、見え方が異なり勘違いや事故を招くことになりかねないということは、社会問題であるとも言える。
 他方、説明が医学的に適切であることは認めるにしても、そして、生活上のアドバイスが見事になされているにしても、このアドバイスのほうが、文章によるものが多いというところが、実践上の壁になっているかもしれない。つまり、「背景と文字の間にはっきりした明度差をつける(色相の差ではダメ)」というようなアドバイスが、p73に22項目並んでいるが、この文だけで、実際に何をどうしたらよいか、するりと呑み込めるだろうか。本書自体が、全般的に、メカニズムを知らせるという目的があるにしても、この優れたアドバイスが、この一文で終わっているというのは、もったいない気がするのだ。ここを、具体的な例をひとつ印刷してもらえたら、身近な表示のあれはまずいな、と読者は直感的に知ることができるだろう。手元の地下鉄の路線図の不適切さを感じることもできるだろう。ここは、他のガイドラインの引用であるようだが、それにしても、読者に訴えたいことは、カラーで図示して欲しかった。
 もちろん、印刷の色による説明はほかにもなされており、また、その印刷のとおりに見えているかどうかは分からず、個人差もあるため、それは一例であるという断りが随所にあり、誠実さは伝わってくる。これまでこういうことについて考えたことがなかった人にとっては、それだけでも驚きであろう。
 小学校での色覚検査は、2003年から廃止されていたが、2016年度から再開する。私の子たちはこの期間にまたがるように小学校生活を営んできたので、この経緯や状況をよく知っている。
 盲については、かなり実際上の不便や危険性があるため、比較的配慮がなされている社会であるが、聾については、見た目で分からないこともあるのか、蔑ろにされてきた歴史がある。ようやく、手話条例というような形で、社会に知られてきたのであるが、それでもまだ、駅のアナウンスや災害時、そしてエレベーターなど、配慮がまだまだこれからという状況も多い。しかし、この色覚については、旧態依然に、異常者は一切仕事に就けないという規定のまま運営されていたり、そもそも公共の案内図などの色分けが全く分からない事態を想定していないなど、これらの中では一番遅れているように思われる。本書は、そうした面への配慮も求めている。そもそも、私たちが異口同音に「赤」と呼んでいる色を、一人ひとりが全く同様に感覚しているという保証が、実はないのであって、色覚というのはパーソナルなものであり、メカニズムも不明な部分が依然として多い。男子の20人に1人はこれを抱えていると言われるから、一学級に一人いると想定してよいのに、あまりにも無配慮だったという現実に対して、これから社会は、適切に認識して、対応していかなければならないだろう。さらにこの本が強調している、加齢による色覚の変化というのは、私もあまり意識していなかったことであって、もっと知られてよいことなのだろうと強く思った。
 もはや、これはマイノリティではない。




Takapan
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