本

『スポーツ学のすすめ』

ホンとの本

『スポーツ学のすすめ』
びわこ成蹊スポーツ大学編
大修館書店
\2205
2008.8

 プロ野球にしても、ずいぶんと昔と変わってきた。先発投手が連投するのもよくあることで、中三日などのローテーションが当たり前だった時代は過ぎて、今や週一が常識である。練習の仕方も、ウサギ跳びなどは今の時代にやらせる指導者はいない。いたとすれば、よほど時代錯誤の激しい頑固者である。筋肉をつけ鍛えるには、ゆっくりとした動きが望ましいとして、様々な運動が研究開発されている。
 スポーツ科学なるものが近年強調されている。たんに運動の仕方に留まらない。栄養の取り方を、食事の内容はもちろん、その摂取時間なども考慮していくことが必要とされる。
 ところが、この本の立場はそれとも違う。大学の課程の参考書として作られたという本書は、「スポーツ学」なるものを提唱している。それは、科学という名の下に退けられていた、経験知も含めて、心理的な影響や、スポーツを巡る報道の問題や、果ては政治的な問題までを幅広く含んで考察していく立場のことである。数字で表せないためにスポーツ科学からは排除されていた事柄も取り入れて、広大な視点で人生におけるスポーツの意味を捉えるものである。
 だから、幼児の足を持って動かすというような、たんなる育児の瑣末な事柄に属するというようなことも、このスポーツ学の範疇に入ってくるし、この本でも早い頁から、障害者や高齢者とスポーツとの関係が論じられている。
 その他、学校の体育指導や、コーチングとは何かということも、そして先に挙げた情報との関係やビジネスにおけるスポーツの存在についてなど、スポーツや運動というものについてあらゆる角度から捉えようという試みがなされている。
 いやはや、これは考えさせられる。もはや、自分はこれがうまくなりたいとか、勝つために何をすればよいかとか、そうした限定された目的のための知識ではない。そもそも人は何故からだを動かすのか、という辺りから哲学的に広く深く見つめ実践していこうという、壮大な研究分野である。
 この提案をどう受け止めるか、果たしてそれは哲学のように役に立たない戯言のように見捨てられてしまうのか、それとも人類にとり重要な提言であると受け止めて問題視されるのか、今後の動向が注目される。このような提案を小さなこととして無視していくのかどうか、そのいわば政治的な動きすら、このスポーツ学には含まれるのだろうか。そこまでメタに捉えられているようには、さすがに見えないけれども。




Takapan
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