本

『キリスト教神学基本用語集』

ホンとの本

『キリスト教神学基本用語集』
J.ゴンザレス
鈴木浩訳
教文館
\2940
2010.10.

 以前、『キリスト教神学入門』というしっかりした本のことで触れた著者の手による、神学用語集という、いわば辞典がこれである。非常に説明がうまく効果的で、教育的な著述にも長けた著者が、神学の用語について語ったもの。つまり、たんに用語集というものをイメージすると、勝手が違うであろう。というのは、これは集団知による総合的な著作なのではなく、個人的な著述であるからである。グループによる辞典は、より正確さが求められ慎重な編集が進むであろうし、偏った見解をできるだけ省くようにメンバーにより自制がかかることだろう。しかし、一人の手による見解のまとめは、もしかすると誤解や間違いが入るかもしれないという懸念のほかに、偏った解釈で説明しただけとなりはしないか、ということが心配とされるものである。
 それがないとは言えない。現に、キューバ系としてアメリカ人に属する著者は、ヒスパニック神学の項目については、他に類を見ないほどに詳しく述べている。詳しくとは言え、この用語集は特別に分厚いということもないので、それぞれの項目の解説はできるだけ刈り込まれている。いや、どうかすると長い説明が加わっているということもあり、その辺りも、バランスをとろうとする集団的執筆とは異なり、個人が著述するという方法から説明できることだろう。
 つまりは、ある意味で個人的見解がここにあるわけで、客観的な神学解説だというよりは、どちらかというと、項目は成立しているが、ある種の個性的な読み物として、思い切った説明などでも楽しんで読んでいきたい著作である、とも言うことができる。現に、私もそのようなつもりで購入し、少しずつだが読んで行った。決して、調べ物で必要だったからそこだけ開いて読んだ、という通常の辞典のような使い方をしたのではない。
 そして、そのほうが面白いのである。
 非常に多くの著作をなしている著者である。あちこちで言ったことや、言いたかったことなどが心にある限り、それが神学用語の解説として形になった、というものだと言えるだろう。ユニークな部分も少なくないので、楽しめる読書となるであろう。
 ある意味で偏っているのは事実なのだから、これを以て絶対的な真理だというつもりで辞書的に引くだけだと、なにかと誤解するようなことになるかもしれない。あくまでも楽しむべきだ。しかし、ふと何かについて意味が分からずに困ったとき、調べてみることについてはもちろん悪いものではない。新しい神学の傾向や、歴史的な事柄についての現代的な解釈や説明といったものが、ほどよく触れられて簡潔に記されている。読者はまた、自分だったらどう考えるか、ということを答えるべく、考察するべきだとぶつけられているような気もする。
 元は英語の用語がアルファベット順に並べられていたはずだが、日本語用としては、日本語のあいうえお順にそれが並べ替えられるということになる。組み替えて編集されていることになる。もしかすると、著者は、元来の順序で読んだときに何かあることが感じられるように、しかけをしていたかもしれない。が、そこまで踏み込んで裏読みを試みるのではなく、素直に、それぞれの項目についての最低限の理解を得るために、大いに用いてよいだろう。なにしろ、こうした神学の辞典の中では、驚くほど安価でコンパクトである。全部読破するにも適切な程度の量である。そしてあまり関係のないことだが、イマドキ函に入った本というのも珍しいように見える。そのデザインも、辞典としての本体の表紙のエレガントさも、また綴じ方にしても、幾度も開き調べていくに耐えうるようなものになっている。
 もちろん、決して安いとまでは言えないのだが、通例こうした神学用語について本を探すと、五千円単位でお金が飛んでいくことを思うと、比較的ハンディで、利用しやすいと言えるだろう。キリスト教神学についての基本的な枠組みを得るためにも、使いやすい。そしてまた、読み込めば確かに、面白い。読むだけでも、もちろん効果的である。
 手許に置くだけではもったいない。全編読み通しておきたい。




Takapan
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