本

『少子社会日本』

ホンとの本

『少子社会日本』
山田昌弘
岩波新書1070
\777
2007.4

 副題が「もうひとつの格差のゆくえ」という。的確なタイトルである。
 働きたい女性が増えて、少子化が進行した。この神話あるいは、一部の為政者に都合のよい言い訳がまかり通っていることに疑問を感じたために、そうではないということを、資料を活用し、また学生との対話を通じるなどして、実証しようとしている本である。
 少子化は、結局経済格差の問題に結びつくという。また、より具体的には、パラサイトシングルに象徴される生活スタイルとそれを認める社会が、少子化を加速させているという。
 述べたいことがはっきりしているため、その論証が十分これだけの新書においても展開されており、通常の新書よりは、かなり専門書と読んでしかるべきレベルになっているかもしれない。もちろん、内容は一般の人々に読みやすくつくられているのであるが。
 そのためには、少々言い憚るような言葉も隠さない。通常の報道などでは制限されるかもしれないような、はっきりしたものの言い方をする場面がある。わざわざ奇をてらうようなことはすべきではないだろうが、こういうはっきりした考え方を隠してきたところにも、少子化の原因があるというのだから、驚きである。それも、実に納得しやすい形で書かれている。
 私個人は、この傾向と見事に食い違っている、ということもよく分かった。妻への感謝もしきりである。やはり、私たちは世間としっかりずれているらしい。
 この本のさらに優れているところは、理論的に、政治経済の部門において、少子化をくいとめるためにはこれをする必要がある、というはっきりした方向性、政策を提案していることだ。ただ原因を調べただけではない。感想を述べたものでもない。原因がはっきりしたのならば、そこから逆に、少子化傾向を逆転するための具体的な方策もつくられうるというわけである。
 著者はあとがきの中に、戦争に喩えるというのには注意書きをした上で、戦記物の話を加えているがそれが印象的であった。
 太平洋戦争で日本軍が作戦的に失敗したいくつかの要因を挙げ、少子化対策にしても、全く同じような失敗をしようとしている、と警告するのである。日本人の立てる作戦というのは、どんな場面でも同じようなものになるのかもしれない。
 とすれば、企業においても、また布教活動においても、同じ轍を踏んでいないかどうか、点検する価値があるのではないだろうか。
 この本は、ぜひすべての日本人に読んでもらいたいと思った。




Takapan
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