本

『西暦はどのようにして生まれたのか』

ホンとの本

『西暦はどのようにして生まれたのか』
H.マイアー
野村美紀子訳
教文館
\1800+
1999.9.

 書店の方には申し訳ない。(20年ほど前のものが普通にあるというのも驚きだが)店頭で見かけて魅力を感じたのだが、薄手のわりには高価に感じた。貧しい身の感覚である。もしかして古書ではどうかと調べると、ぐっと安く手に入る。ここは、棚に戻して送られるのを待つことにしようと企んだ。こうして、配達業の方の仕事も増やしてしまったのである。
 出版が1999年。そして2000年を前に、「時」についていくらか注目を集めていた時期である。一方では、世の終わりという視野もあったが、コンピュータで2000年問題と言われたものもあった。世紀が変わるということで、何か大きな変化を感じた人々がいたのも確かである。
 しかしこの2000年というのは何であるかというと、紛れもなくキリスト紀元である。事実上、計算違いのゆえに数年のずれがあるとも言われるが、それでも、キリスト誕生の年はいまなお確定しているわけではない。
 その経緯について私は以前調べたこともあり、予備知識はあった。だが、本書は必ずしもその知識に沿ったものではなかった。もっと数を具体的に扱ったのかと思ったら、そうではなく、むしろ歴史的背景と制度的なもの、そこに関わった人物というものを色濃く反映させて描いていたように見える。
 つまりは、やはりこれは読み物なのである。説明書というものでなく、物語を示すというタイプであり、メカニズムを説くつもりはないのであった。
 また、後半は殉教者列伝が挙げられ、暦に関するものではあるものの、少し話題が外れるような気さえした。が、そこはそれ、やはり暦がいまのように用いられるようになるために関わった人物についてのエピソードがその後単発的に取り上げられていく。細かな知識を提供してくれるものとして、一つひとつの項目が分けられているのはありがたいとも思った。
 たしかに、と思ったのは、キリスト紀元というのが、キリスト以前を遡って紀年するものであるが、これが改めて考えてみればユニークだということである。その考え方そのものに、福音や神学の理解が伴っているとも考えられるが、そこに落ち着くまでにも、紆余曲折があったようであることは想像に難くない。一時は、キリスト以降はキリスト紀元であるが、その前は創造紀元の以前の形が用いられるなど、記述が混在していたこともあったようなのだ。また、キリスト紀元とは言っても、その誕生なのか復活なのかという点で、いろいろあったらしいことも窺えた。
 薄い本は、要点が捉えやすい。コンパクトにまとまり、手近で学びやすいのはその通りである。数人で囲んで読み、また話し合うというためにも、面白い書ではなかったかと思う。そして最初に挙げたように、2017年になお一般書店の店頭に並んでいたということが、私にとり驚きなのであった。




Takapan
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