本

『聖火』

ホンとの本

『聖火』
モーム
行方昭夫訳
講談社文芸文庫
\1300+
2017.2.

 関心があっても文庫本で本文が166頁止まりでこの価格だと、買う気持ちになれないのが正直なところだ。図書館で見つけたときには喜んだ。ウィリアム・サマセット・モームの傑作の一つである。
 登場人物は8人。うち一人が死ぬ。自殺かと思いきや、それは他殺だと考える看護婦がいた。それは、ある人物を犯人と見立ててのことであったが、そう思う背後には看護婦自身の感情が隠れていた。
 推理仕立ての戯曲である。もちろんここで話の内容を出してしまうわけにはゆかない。しかしそれでは、紹介も書評もできない。難しいスペースとなる。
 それなら、本の裏に書かれてあることをそのまま引用することとしよう。

第一次大戦後の英国上流家庭。自己で半身不随となりながらも
快活にふるまう長男が、ある朝、謎の死を遂げる。
美しい妻、ハンサムな弟、謹厳な母、主治医、看護婦らが、 真相を求めて語り合う。他殺か、自殺か。動機、方法は?
推理小説仕立ての戯曲は、人生と愛の真実を巡り急転する。
二十世紀随一の物語作者(ストーリーテラー)が渾身の力を注ぎ、挑んだ問題劇。
今なおイギリスで上演され続ける、普遍的名作。

 なるほど、さすがプロである。素晴らしいまとめであるし、このまとめに惹かれて私は、苦手な戯曲を読みたいと思うようになった。
 大学入試のための英文解釈で触れた思い出のあるモームである。他の代表作も読んだことはある。でもそれは若い頃だった。どれほどのことが読めていたか、今となっては分からない。今回のこの『聖火』、しみじみ味わうことができたことは感謝だった。すべてが分かるなどとは言わないが、それぞれの登場人物の個性がよく描かれており、日本人の俳優だったら誰がよいだろうか、と考える愉しみが持てると思った。それくらい、生き生きと、つまりリアリティをもって迫るものがあった。
 人間観察の優れた著者であるから当然といえば当然なのだが、それぞれの立場やふとした言葉遣いや目配せなどが、ちゃんと伏線になっている。読んでいても、ここに目を留めておく必要があるな、と読者に思わせるのも巧い。また、もしメディア化されるのであれば、たとえ結末が分かってしまったとしても、改めて最初から辿りたいと思わせるものが確かにあった。それぞれの思惑や利害関係から、判断が歪んでいくのは怖いとは思うが、しかしそれが人間たるものである、ということも承知しているつもりだ。
 障害者となったモーリスの姿、またその心の苦しみなども、私たちはいまなお色褪せず受け止めることができるだろう。それがまたいつの間にか、自分のことが言われているのだ、と感じてしまうことだろう。これがあるから、文学はまさに人生論となっていくのである。




Takapan
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