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『ビジュアル版 学校の歴史2 文房具・持ち物編』

ホンとの本

『ビジュアル版 学校の歴史2 文房具・持ち物編』
岩本努・保坂和雄・渡辺賢二共著
汐文社
\2625
2012.10.

 いかにも図書館向けの装丁で価格もそういうことになっているが、なかなか見応えがある。子どもが読むように作られているが、大人も十分楽しめる。
 このシリーズは、「学校生活編」「校舎・校庭編」「教科書・課外活動・災害編」と分かれており、全部で4巻あるそうだ。どれも面白そうだが、私がさしあたり手に取ったのは、趣味を反映して、文房具であった。
 全体で50頁余りしかないし、ひとつの項目については2頁から4頁ほどであるが、ふんだんに資料が写真で載せてあり、またその出典も明らかにされていて、不足感はない。むしろ一点に絞って紹介しているので、私たちの理解に実のところ最も相応しい形で迫ってくる。
 江戸時代の筆記用具から入り、続いて石盤や石墨と続くが、このあたりになると私でももちろん骨董品扱いだ。子どもたちにとっては一律「過去」の領域に入ってしまい、案外身近に感じるかもしれない。ところが次に「鉛筆」が来る。ここで俄然、現代と直結すると言える。そして鉛筆にまつわるいくつかの話題が続く。実に興味深く記されており、資料も効果的に並べられている。大人でも十分「へぇ」と見入ってしまうほどだ。
 そうだ、「筆入れ」が元々筆を入れていたことくらいは認識していたが、「鉛筆」は間違いなく「鉛」であった。古代ローマでは鉛で書いていたと記されている。すると、聖書時代やその後の教父の時代にしても、鉛でパピルスか羊皮紙に綴ることもあったかもしれない、と思うとわくわくしてくる。いや、たいていはインクであったはずなのだが、どういう場面で鉛の筆を使っていたのか、興味深い。
 鉛筆削り器や消しゴム、シャープペンシルやボールペンといった定番の文房具が次々と登場する。子どもにとり、文房具というものは実に身近な存在なのだ。引きこまれていきそうな気がする。大学ノートの由来やその特長も知ることができた。クレヨンの作り方も簡単だがよく紹介されている。それから、やはり謄写版なるものがうれしい。私でかろうじて知っている。鉄筆を使ったこともあるし、ヤスリを使うテクニックも聞いて知っていた。その後、ボールペン原紙は中学で使うことも多かった。謄写版というマニュアルな印刷技術は、いくらコンピュータ万能の時代にあっても、どこかで触れておいたほうがいい。あらゆる自動機能は、手動操作の何かを活用している部分があるからだ。原理のようなものを知っておくことは、決してマイナスにはならない。
 こうしたわけで、最後に傘や上履きについて触れられて、この本は幕を閉じる。身近なものの由来や経緯を知ることは、人間は殆ど本能的に関心を示すものだろう。子ども向けであるから深く立ち入った考察があるわけではないし、ある意味でものの見事にデータをばっさり切ってできあがった本であると言えるのだが、そこから先については、また別の本で調べればよいし、何よりそのように調べてみようという気持ちを起こさせることが、こうした本の第一の目的だと見なしてもよいくらいだと私は考えている。それは資料として物足りないのではなく、立派な教育効果をもたらす、すばらしい企画だということである。
 少しではあるが、参考文献が巻末に紹介されている。こうした、いわば「リンク先」を載せているのは、資料提供者への礼儀という意味を超えて、教育的配慮として必要なものであり、また誠意というものでもあるだろう。シリーズの他の本もまた見たくなってくる。




Takapan
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