本

『大人のやりなおし 中学物理』

ホンとの本

『大人のやりなおし 中学物理』
左巻健男
ソフトバンククリエイティブ
\999
2008.1

 サイエンス・アイ新書というシリーズが始まった。科学の目を育てようということだろうか。子どもたちの理系離れが問題視されていて、これではいけない、という思いをもつ大人も少なくないわけである。
 数理系の面白いところは、さしあたり損得勘定と関係がない、ということであると私は感じる。もちろんそれが社会的に利用されるにあたっては、損益が発生していくことになるのだが、ただ純粋に知的な愉快さをそこに覚えるというのが現場を包む心理ではないかと思うのだ。
 謎が解けて楽しい。わけが分かってうれしい。
 子どもたちの、輝く眼差しは、そうしたスッキリした気持ちの中にこそあるように思う。
 ところでこの本は、「大人のやりなおし」と銘打ってある。大人のやり直しとくれば、算数ものが流行している。また、言葉に関するクイズは、芸能人たち相手に大流行である。社会科は、あまりにも世知辛く、身につまされることもあるし、そもそも大人は社会に生きている以上、日常的に過ぎる。知的遊戯は、非日常の中にこそあるものなのだ。
 その点、この理科という視点は、少し新鮮である。もちろん、米村でんじろうさんのように、科学の伝道者もいて人気があるわけだが、案外おとなはそれを見ていない。
 だが、大人とて、家庭用品の故障や不具合に際して、ただ業者を呼ぶだけ、などという人任せでは、大変な出費を要する場合があることを知っているはずだ。ものごとの原理を理解していれば、ここをこうすれば直る可能性がある、という簡単な推理ができただけで、直ることは多々あるのだ。――なんとなれば、私がそうだからだ。
 昔の父親は、たいていそれができたと思う。また、母親もそうだ。だから、「おばあちゃんの知恵」などという言葉が一時よく言われた。今はあまり聞かない。今のおばあちゃんは、すでにもう、生活感がなく原理思考を放棄した世代に入っているのかもしれない。
 さて、この本は物理に限っている。物理は、最も数学に近い。見えないものを相手にするケースが多いだけに、理屈が分からないということが多い。また、現役の中学生にしても、最も人気がないのが物理である。この本は、今中学生である人も読んでもらえばいい、としている。その意味では、「大人の……」と書いてあるのは不利である。大人は手に取るが、中学生は手に取らない。取れるように配慮すればよかったのに。
 中学の理科の先生が、身の回りの現象を使って教えようとしたり、壮大なロマンを語るように、架空の状況設定から理科を説明しようとしたりするとき、どんな話がいいか、この本はそれを学ぶこともできる。だから、新米教師にも実はたいへんよい本である。
 私は塾で、理科もたまに教えることがある。そのときに使う例が、この本にはいくつも含まれていた。私の教え方にたいへんよく似ているところが少なくなかったのだ。その意味でも、この本の説明は、分かりやすくて的確であることを推奨する。もちろん、筆者に対してそんな大それた姿勢をとるつもりはさらさらないのだが。




Takapan
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