本

『日本復興計画』

ホンとの本

『日本復興計画』
大前研一
文藝春秋
\1200
2011.4.

 ビジネスものについては疎いものだから、この著者は経営思想関係の方だと思いこんでいた。原子力(核)工学科の研究者だったのだ。短い期間ではあるが、日立で高速増殖炉の設計に携わっている。
 3月の、東北を中心とする大震災を目の当たりにして、経営や経済の評論家としてももちろんその才能を活かすべき使命が与えられたことだと思われるが、それ以上にまた、福島の原子力発電所の問題については、内部的な観点から事態を判断する能力をもつ人でもあったわけで、インターネットを用いて、地震の直後から、知識や情報を流していたという。
 この本は、その情報を形にまとめたということである。ということは、当初の判断がその後も誤っていなかったという、著者本人の自負もあるのだろう。直後の判断を、1ヶ月以上後にそのまま本にするというのは、なかなか勇気のあることである。
 それはそうとして、原子炉の設計と意味を知る者として、著者は、東電が初期に発表した、内部圧力の8気圧という数字に跳び上がったという。それは計器がすでに使い物になっていない証拠だったのだそうだ。そんな数字が本当ならば、とうに原子炉は破壊されているはずだという、設計上当然の知識である。つまり東電は当初から、そんなありえない数字を出して報告したつもりになっていたというのだ。一事が万事である。その後の東電の、データ隠し並びに奇妙なデータの出し方の連続は、もうそういう無知と責任逃れの意図とからは必然的な出来事として認識されなければならなくなっている。
 著者は、直後から、この先の長期的な展望を頭に置いている。残念ながら、原子炉事故の様子からして、近隣には当面、いや未来永劫人は住めないという。そんなことを信じたくない、という方々もいらっしゃるはずなのだが、厳しい状況は確かである。かつての原子爆弾を落とされた広島にしても、今時分まで人は住めないなどと一時言われていた。それを考えると、福島の復興も確かにあるかもしれない。ただ、こうして二ヶ月三ヶ月と経っても原子炉については何ら良い進展があるとは言えない中では、著者の悲観的な科学的データは、一方で覚悟を決めるものとして構えておく必要はあるだろうと思う。
 なるほどと納得するような指摘も多々ある。あれほど大騒ぎしておきながら、いつしか立ち消えとなり誰もいまさら蒸し返さないようになってしまったこと、あの「計画停電」である。それが検討され始めた時期にすでに、著者は、その無意味さを指摘している。あるいは、こうした指摘があったからこそ、その後計画停電がされなくなっていったのかもしれない。一日数時間の停電は、私たちがテレビを数時間見られない、というような意味を産業的にはもつものではない。システムの立ち上げやシャットダウンに、何時間も要する工場のシステムでは、もう一日何もできないという状況を作り出してしまうのだそうだ。こうした現場の問題を顧みず、一律停電を何度か実施してしまった。そして今はしていない。あれは何だったのだろう。もう誰も論じないけれども。
 また、そもそも先進国の中で、日本だけが家計所得が減少の一途をたどっているという現実をつきつける。原子力発電所を放棄して電力が下がったところで、基本的に困りはしない背景であるのだという。その中で、まだバブルの幻を見て、経済的に豊かな生活をするのが当たり前だというような精神でいる国民を、鋭く批判している。いや、憐れまれないだけまだましかもしれない。科学的・経済的な理論はさておき、この精神性については、私も同感である。なんか、勘違いをしていると私も強く思う。
 被災地、とくに原発関係の地においては、状況は刻々と変化する。震災直後のこの本がどこまで通用するか、むしろ楽しみなのだが、願わくば福島に人が住めるようになってほしいとは思う。もしそれがかなわなくても、厳しい現実を自覚し、謙虚に生きていく術を日本全体が実行していけば、悲惨な未来は避けられるものであると期待したい。いや、それさえも夢を見ているようではありたくない。そのためには、被災しなかった他地域の努力や成果が必要かもしれない。歴史的には、経済的に困難を呈していた時代に優れた文化が生まれた例も多い。経済ばかりを目的としないで、心を見つめることも本気で行う空気が芽生えていないわけでもないのだから、これを一つの機会として、適切な舵を取るリーダーの下に、相応しい希望を実現する海へ乗り出す可能性がまだあるものだと考えたい。東京がどういう態度をとるかにより、船全体も左右されるではあるだろうけれども。
 この本の売り上げの12%は震災からの復興のために寄付されるという。印税の放棄である。それだけ、金儲けでない思いで世にぶつけていくという気構えがはっきりする。そのことがまた、本書が提言していることであるということも、分かりやすくなっているのである。さて、それが有効であるのか、本当に政策に採用されるのか、それは今後を見守る必要がある。私たちもその協力を迫られている事柄である。




Takapan
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