本

『Q.E.D.』

ホンとの本

『Q.E.D.』
バーカード・ポルスター
駒田曜訳
創元社
\1260
2012.11.

 アルケミスト双書というシリーズの一つ。サブタイトルに「知的でエレガントな数学的証明」とある。アルケミストとは元来錬金術師のことで、ある場面ではペテン師のようでもあるが、現代化学の基礎となった考え方に挑んだ人々をいう。鉄を金に換えることには失敗したが、副産物として大きな科学的発展をもたらした。その名を冠したシリーズは、小さな、正方形に近い形の薄い本である。見方によってはこの価格は高いと考えられるだろうが、中身はなかなか濃い。その道を好む人にはたくさんの情報を、実に簡潔にもたらしてくれる。よけいな修飾はいらない。ただ数学や科学の本質だけを提示してほしい、そうした人にはおあつらえむきの本である。場所もとらないし、探す事柄もすぐに見つかる。
 さて、このタイトルがまた、知らない方には意味不明である。Q.E.D.とは、quod erat demonstrandumの略であり、ラテン語で「これは証明されるべきことであった」という程度の意味の句である。そのとおり、証明の末尾に付けられる記号で、いわゆる「証明終わり」という印である。内容的には、高校を飛び出るものが多いが、高校生でも楽しめると思われる。数学に、あるいは数学の美しさに関心のある人ならば、誰でも楽しめるであろう。その方面の話題が簡潔に挙げられていて、図版も多いため、パッと見ただけで概略が分かり、またよく読めば証明も、簡潔ながら要領を得たものであるゆえに理解ができるはずである。
 と書いてみたものの、わたし自身、数学については素人であるため、この本にあることが全部分かったわけではない。何度も読み直してやっと理解できたものもあるし、よく分からない部分もあった。やはりそれなりの数学の素養と教育とが必要だったのだろう。大学生以上がお勧めなのだろうか。
 それでも、楽しめるのは間違いない。中学生に対して説明できるようなものは少ないのだが、そういう世界があるという話は、レベルの高い中学生にとっては目を輝かせることのできる話題となる。そういう意味で、こういう問題について分かり切った人には退屈な内容かもしれないが、少し数学に携わっていて、かといって専門的に学んだことのない人にとって、魅力ある本であると言えるかもしれない。
 附録がまた、狭い範囲に多くのことをぎゅうぎゅうに詰め込んでいる。だから、本の薄さとか文字の少なさとかには影響されない、ぎっしりとした内容がこの本の中にはある。関心のある方はお手に取られるといい。
 ところで、冒頭の話題での証明に、私はまず面食らわされた。「円周上に点を1個、2個、3個、4個、5個とった時、それらの点を結んでできる領域の数は、1,2,4,8,16だが、点が6個のとき、領域は32個になるかと思いきや、実際は31になる」という問いかけに、驚いたのである。中学受験を志す小学生に対して、私は類推で先を読ませることを教えている。但し、本当にそうなるかどうか、必ず事例を集めるように、とは指導しているのだが、入試問題はその予想を裏切ることがない。しかし、やはり類推が効かない例がこのようにあるものだと思わずにやりとしたのである。
 本は、この話題を追究することはない。放り出してどんどん次の話に進む。いったいこれは何故だ、と疑問に思った人は、個別にまた調べたり考えたりするとよいのだ。こうしたことだけでも、この本の奥には雄大な世界が待ち受けていることが分かる。
 楽しめる本である。




Takapan
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