本

『ポスターをつくろう! 魅力的なイラストを描こう!』

ホンとの本

『ポスターをつくろう! 魅力的なイラストを描こう!』
デジカル作
NPO法人地球こどもクラブ協力
汐文社
\2310
2010.10.

 これは、「ポスターをつくろう!」全3巻の、二冊目である。「注目されるコピーを書こう!」と「表現を工夫しよう!」が他にある。
 今回、具体的な絵の描き方を説明した本書を取り上げた。ここに、具体的にポスターを形にするときに最も必要な手段が集中しているからだ。確かにコピーは命を吹き込むかもしれないが、視覚的デザインなしにはコピーだけでポスターになるということは稀である。
 薄い本なので、図書館用と判断してよいだろうが、小学生には誰にでも読めるようにふりがなの配慮がしてあって、見易く、そして丈夫である。
 通常の絵画の学びとしても役立つことが多い。まず絵を、イラストと色塗りとの二つに区分する。それぞれの場面で、技術を身につけることが望ましい。そのためには、これをこうする式のノウハウではなく、どうしてそうするのか、何を目指すのか、スピリットが十分教え込まれることが必要であると私は思っている。この本も、そういう編集であるらしい。だから、「伝える」思いが大切であることから説明が始まっている。何が伝わるか、よく考えてから描き始めることがよいのだ。
 具体的に、協力者の提供によるポスターの実例が随所にあり、説明の言葉が分かりやすく伝わってくる。まさに、この本そのものが、伝えようと努力しているのであり、そのためにどういう本にしているのか、そこを考えたら、実はポスター効果というものの学習ができることになるのだが、さすがに小学生はそこまでは深読みしないだろう。それでもいい。ここにある図版や解説から、たくさんのことを学んだらよい。
 街を観察して、何をどう伝えようと努めているかを想像してみよう、というコラムもある。これが実にいい。結局のところ、感覚を磨くには、本を見てうなっていてもだめなのであって、日常生活の中でつねにアンテナを張り、出会うものから感じ取っていかなければならないのである。
 もちろん、道具の紹介もある。あまりに詳しすぎないようにしてあるので、道具についてはさらに訳知りの人に選んでもらうようなことが必要であるかもしれない。つまり、この本を教科書として、あとは現場の教師が、説明を加えるというようなあり方が意識されているようにも見える。まさに、学校の教科書としての役割が期待された本なのである。
 その後の解説は、この本のウリでもあることだろうから、悉くここで触れるわけにはゆかない。デフォルメのことから、顔の描き方という基本、透視図法の概略や、画材の違いの模範など、なかなか細かいところにまで立ち入って、分かりやすく見せてくれている。まさに教科書としては十分である。
 さらに、ありきたりの説明では気付かないような、ちょっとしたことへの気づきも備えられているように見える。描く対象により、下書きの要領も微妙に違うのである。また、髪の毛や動物の毛なども、それぞれ描き方に特殊なものがあると見てよい。そういう小さなコツがそこかしこにちりばめられている印象を与えるのも好ましい。
 このように、優れた入門書であると認めた上で、一つ難点を申し上げることにする。それは、この本の協力者のことだ。どうも、環境問題に関わるグループらしい。例としてここに示されるポスターが、環境問題のものに限られていると言ってもいいくらいなのだ。内容や主張が、例示するにしては偏っており、色合いや全体の調子も、同じように見えるものが多々ある。この本でポスターのことを学ぼうと思った小学生が見るとき、まるでそのようなタイプのポスターでなければならないのだ、という気持ちにならないだろうか。全体的に、小さな絵が細かく描き込まれ、多様な要素がふんだんにちりばめられているのだが、自然保護や環境問題を扱うと、確かにそのような傾向になることだろう。だがポスターというのは、そのような対象や主張に限るものではもちろんない。たとえば電車のマナーを訴えるポスターであれば、このように書き込みすぎると焦点がぼける。思い切り省略した姿で示す必要がある。言葉そのものを目立たせたほうが、理解や推測が働きやすいというような概念のポスターもあることだろう。人工的な味わいを打ち出すべき場面もあるかもしれない。いずれにしても、この本は、協力者がいるために、実例が偏っている。この点が、もしかすると企画や出版の事情があるかもしれないけれども、私に言わせれば、もったいないものであった。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system