本

『読まずに死ねない哲学名著50冊』

ホンとの本

『読まずに死ねない哲学名著50冊』
平原卓
フォレスト出版
\1200+
2016.3.

 なかなか刺激的なタイトルである。若い人向けと思しき表紙は、その後女子学生の実写版も出ている。著者も若手で、勢いのよい書きぶりが頼もしく見える。
 世に哲学入門の本は多い。また、密かにではあるがブームであるともいえ、思想界についてなにがしか関心をもつ人は少なくないようだ。世界情勢や世の中で進んでいることについて、その背景的な考え方、その枠組みというものに目を向けたいという人が増え始めているように見受けられる。よいことだ。現象の背後にある何かを見定めたい、そうでないとこれからどこに行くのか分からないという不安があるのかもしれない。そう、人間はどこから来てどこへ行くのか。何を望むことができるのか。カントが掲げたいわば素朴な問いは、哲学の根本問題であると言えるだろう。
 しかし、哲学についてひととおり知るだけでも、もちろんそう簡単なことではない。一定の用語や概念について知らないと、もののひとつも考えることができないように思われていることだろう。確かに、歴史上の哲学の本を読むためには、それは欠かせない。だが、哲学史を知ることが哲学することではない。大切なのは、いまここにいる自分が、人が、考えることである。おそらくは根拠を考え、そこから現象を捉え直す。時に、ここからどういう方向に進んでいくのかを予想し、そのために警告を発しもする。哲学は思索することと言い換えてもよい。
 だがまた、自分勝手にただ考えてよいわけではない。自分で思いついたことがさも天才的な発想のように思えることは、人間たしかによくあることである。中には、世界の問題は自分の思いつきで解決されたのだというように、思い込みの強い人もいて、自己愛もここまでくれば気の毒を通り超えておめでたいとも言えるのだが、当人がその考えを無邪気に振りまけるのがいまのSNSの時代なので、やめてほしいと思うことは度々ある。いやはや、自分もその一人なのかもしれないが。
 さて、哲学的に考えるためにはそれ相応の訓練が必要であるというふうに言うわけだが、訓練を受けても、逆に思想の歴史の流れや、要するにそれはどんな価値がある本で、どんな影響を実際与えたのか、と問われると、もごもごとしてしまうことはよくありまる。好い例が私である。
 そこへ、この500ページ近い新書、実に面白い。鋭い切り口で、時代の中におけるその哲学書の意味を駆け抜けていく。もう余計な議論は削ぎ落とし、一言で言うと何だ、という調子で、チラシだけ蒔いていく感じである。しかし、それがなかなか的確で、小気味よい。
 もちろん、詳しく言えばもっといろいろなことを説明できるはずだし、説明しなければならない。しかし現代的意義を目標に据えて、その哲学者の言いたかったことを数百字でまとめると、こんなことになる、という点で、なかなか優れた解説書となっていると私は思う。私もここに挙げられた哲学書のすべてを読んだわけでは到底ないわけで、「へぇ」と教えられることが多々あったことは確かである。
 その辺りが、伝統的な、通り一遍の哲学解説書とは違う。50冊に限り、しかもその一冊一冊の要点を限りなく簡潔にまとめてしまったというもので、読むほうの負担にもならないと言える。哲学の歴史に詳しくなるというよりも、これまでの人類の遺産をいまここで活かすために、私たちがここから自ら「哲学する」ために、悪くない一冊だと見た。




Takapan
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