本

『大人になるための社会科入門』

ホンとの本

『大人になるための社会科入門』
乙武洋匡
幻冬舎
\1260
2007.8

 今や杉並区立杉並第四小学校教諭という肩書きで、この本が出されることとなった。
 先般までプロとしてやっていた、スポーツのルポなどでもない。そしてまた、現場の小学生についての感想などでもない。社会科入門などとあるが、学科めいたところはどこにもない。
 そう、まさにこれは「社会」なのだ。
 世の中のことを、どう理解すればよいか。その中にいる自分とは一体何者なのか、私は社会とどう関わり、何を社会にはたらきかけることができるのか。そんな、素朴な眼差しというものを、大切に温めていっただけで、こんなに心に伝わる何かをもつ本ができた。
 なんとなく、分かったふりして、水に流されるように世の中に流されてその波に乗っているだけ、そうした人生は、少なくないように思われる。そこへ、ちょっとばかり棹さしながら、「待てよ」と、ここに自分がいる意味などを考えながら、社会全体のことを考えていく、というスタンスである。
 30歳を迎えようとする著者が、この社会全体のことも考えなければならないな、と気づいたというあたりの動機であるのかもしれないが、それが実は忠実であり、正統であるものだと、私は応援したい。この連載中に、30歳を迎えてしまった。それでも、彼の良い意味での若さは失われていない。
 こうした「社会と個人」という問題は、つねに現代人の課題でもあるのだろう。
 テーマ的に言うと、ニート・愛国心・環境・お金・平和・性同一性障害・オタク・スポーツ文化・ボランティア・ペット・結婚・教育と流れていく。
 お金をカタカナで書くとどう感覚が変わるか、とか、犬を殺す現実の姿を描いてなおたんなる感情によらず涙滲む眼差しでどうしたらよいのかを考える、とか、まさに私たちの目の高さで見つめているのがいい。気取らず、また偉い学説に根拠をおかず、あくまでも、今この社会に生きている自分の視線であり、視座を基に考える。
 考えてみれば、これこそ哲学の姿勢ではなかったか。
 個人的には、次に乙武氏が、小学校という場で、子どもとの出会いを経験して、また新しくどんな視野を得、それを私たちにレポートしてくれるか、楽しみにしている。というのは、この本の終わりのほうで、赤信号で渡るのは自己責任で構わないというのがこれまでの考えだっだが、子どもの視線をそこに感じて考えるようになった、と変化を告白しているからだ。
 もう一つ、蛇足ながら、もしかすると、高校入試か中学入試で、国語の問題をここからつくってみたい、と思う先生もいるのではないか、と楽しみにも思ったことを付け加えておく。




Takapan
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