本

『大阪デビュー!』

ホンとの本

『大阪デビュー!』
小林裕美子
牧野出版
\1365
2006.10

 はたして、マンガをこのコーナーで挙げてよいものかどうか。私の中でも答えが出ているわけではないままに、取り上げてしまう。
 私も京都に長く住んでいたし、大阪へも家庭教師に行ったり、映画館に通ったりと、交流が深かった。一時は大阪府内に住むことも真剣に考えていたし、大阪の大学院を目指したこともあった。それなりに、大阪は感じている。京都とは甚だしく違うということも、感じている。
 だから、この大阪の紹介の本は、面白い。これは、関東から突然大阪に引っ越すことになったイラストレーターが、その顛末をマンガ仕立てにしたものである。だから、元来の漫画家が描いたというものではない。その味が、またこのテーマに相応しく現れているように思う。
 このように、大阪人ならば当たり前にしか思えない日常が、他地域、とくに大阪をどこか見下している意識がたしかにある関東の人から身を以て体験されていくと、こんなにも大袈裟に描かれることになるのだ。それが、抱腹絶倒を誘う。
 繰り返すが、これは関西人にはごく当たり前の風景が描かれているに過ぎないのだ。住む人誰もがボケとツッコミを自然に演じ、何か喋るのは人を笑かせるためでしかないという血が流れる人々の、しっかりと自我を保った生き方であるに過ぎないのだ。
 敢えて、この本の中に描かれてある具体的な姿は紹介すまい。とにかく触れて、笑って戴きたい。そして、どこかでポロッと、笑いによるのではない涙が、混じってくる感触を味わって戴けたら、と願う。そう、それはこの本にも触れてあるが、まさしく吉本新喜劇の呼吸である。
 いつものように電車の中でこの本は読んだのであるが、危うく駅を乗り過ごしそうになったということを、最後に付け加えておく。




Takapan
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