本

『にほんのおまじない』

ホンとの本

『にほんのおまじない』
広田千悦子
徳間書店
\1260
2012.2.

 八百万の神を前提としての、呪術的な「おまじない」。それをメインにしている本なのだから、私が紹介するのは矛盾している。これは信仰的にはけしからん本である。おまけに表紙には、小さな字だがそこそこインパクトのある姿で「幸せを引き寄せる小さな魔法」とある。こんなものを勧めるとはゆゆしき事態であるとお叱りを受けそうである。
 だが、これは決して、宗教的なものを紹介しているものではないと見た。要するに、日本人の心というものが並べられているのだ。あまりにも日常の中に隠れて何の意識もしないでやっているようなこと、出会うような事柄のうちに、どういう「心」が隠れているのかを明らかにしてくれる本だと思うのである。
 たとえば、「糸を結ぶ」というだけの言葉の中に、縁結びの思いがこめられ、また、新嘗祭の中の行為まで触れられる。「息を吹きかける」という行為の中に、体の痛みをとる作用が期待され、それはまさに聖書の霊と息との関係に匹敵するような構造からくるものであるという。その横のページには「手でなでる」がある。これも癒しの業と考えれば聖書の世界とまさに比べられる内容となっていると言える。こうしたことは簡潔に説明されている。実に短いコメントの中に、たくさんの情報が溢れている。
 巻末のほうには、日常の言葉にこめられた日本人の思いが、これまた短い説明で要を尽くす形で載せられている。「ありがとう」「おかげさまで」「すみません」「ただいま」という、いわばただの挨拶のような言葉の中に、どんな「心」がこめられているかを明らかにしてくれるのには驚きである。
 繰り返すが、これは簡潔の妙である。これほどシンプルに、言葉の核心が説明できるのだ。冗長の得意な私には、羨ましい才覚である。ということで、今回は私もだらだらしないうちに退散することにしよう。
 薄い本であるし、内容が少ないように見えるかもしれないが、その「心」はたいそう深い。それだけは確かである。




Takapan
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