本

『お化け屋敷で科学する!』

ホンとの本

『お化け屋敷で科学する!』
協力・日本科学未来館
扶桑社
\1575
2011.3.

 恐怖。
 これを、心理的に説明するか、脳科学的に説明するか、さらにそれを何か物質的に説明するか、はたまた社会的に説明するか。様々な角度から、ある専門家が述べることはできる。だが、それを統合的に語り尽くすことは不可能にさえ思われる。
 かつては、それを哲学者が担当していた。だが、科学の発展は、哲学的な思考で解決してしまうという扱いを消滅させてしまったと言える。
 それにしても、そもそも恐怖とは何であろうか。どうして人は恐怖感をもつのか。現象として取り上げることはできるかもしれないが、その理由や目的、メカニズムについて述べ尽くすというのはやはり難しいはずだろう。いや、誰も探究していなかった、と言うこともできそうである。
 この問題を、日本科学未来館が2009年に企画展示したのがこの本の内容である。この内容を本にしたのがこれだということになる。そして、これは一般の人に身近に感じてもらう、考えてもらうのが目的であっただけに、実に分かりやすい、あるいはまた卑近な説明に基づく本となっている。
 それは、全員に見てほしい、イラスト混じりの楽しい、あるいは見方によればどこかふざけた説明が大きくあり、そこには文字が少なく、そもそも文字がやたら大きい。誰でもそこだけは見るだろう。
 それに対して、専門家があるテーマに絞り込んだ形で研究成果を簡単にではあるが詳しく語る特集頁は、かなり文字が小さい。あまり読みたがらない人は飛ばしてしまうことだろう。
 だが、それでもいいとこの本はたぶん考えているものだと思う。そもそもイベント館での展示というものが、そういう性質のものである。新聞の見出しやリード、冒頭文のように、見たい人が見たいところを順番に捉えてくれれば、それぞれがそれなりの理解をすることが可能であるように、それぞれがひとまず満足できるように構成されているものだ。この本も、それを意識して編集してあるものだと理解したい。
 この研究の中で、恐怖について調べられていく中で、比重が非常に大きくなっていくものがあった。「記憶」である。人は、記憶があるからこそ恐怖を感じるという仕組みが語られていくのだが、この記憶というもの自体、実のところ解明が程遠い課題であるようだ。人はどうして記憶できるのか。忘却するのは何故か。急に思い出すこともある。短期的記憶もあれば、長期的記憶もある。この本では海馬の働きがやや詳しく説明されているものの、もちろんひとつの展示説明の中では、すべてが解明されていくわけでもないし、何もかもが詳細に提供されるということもない。
 要は、ここを入口として、関心をもち、何か一つの事柄についてもまた考えたり探究したりしていけばよいのである。
 だから、題材はまずタイトルにあるように「お化け屋敷」でよいのだし、そこから今「科学する」という探究の糸口が決意されればそれで十分なのである。
 それにしても、お化け屋敷というものの存在そのものが、稀なものになってきつつしていないだうろか。夜中もテレビ・ラジオが放送され、電灯が明々と照らす街。闇なるものが皆目体験されなくなった社会の中で、いつしか心ばかりが「闇」だと指摘されていく。昔には「闇」は可視的な領域にあったと思うが、今は不可視的なところに行ってしまった。そうなると、科学されなければならないお化け屋敷の本質は、また違うところに行ってしまうかもしれない。




Takapan
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