本

『虹物語』

ホンとの本

『虹物語』
写真・高橋真澄/文と構成・杉山久仁彦
青菁社
\2310
2007.11

 富良野。厳しい寒さは想像を絶するだろうと思う。北海道は私にとり未知の世界だが、その寒さゆえに、暮らしてはいけない場所だろうと認識している。
 だが、これだけの光に出会えるのだとしたら、住んでみたいというロマンチックな気持ちが生まれてくる……そんな本であった。
 虹は、この本でも紹介してあるように、聖書にとり象徴的な意味をもつものとなっている。言うまでもなく、ノアの契約の虹である。また、黙示録にも少々登場する。
 他方、中国系で空の蛇だと捉えられていたことも、日本人として受け容れたいとは思っている。
 いや、そんな理屈など、いらない。この本の写真を見るだけでいい。
 癒される。
 ワーズワースだったろうか、虹を見て感動しなくなることは生き続けるに値しない、みたいなことを言ったのは。私は幸い、まだ胸躍る。だからこの本を開く手が震えた。
 たしかに、こんな虹の写真集というのは、見たことがない。そもそも虹にそれほどに出会えることが難しいからだ。
 富良野という地は、虹の多い地であるともいう。それにしても、20年ほどの時間を経て、虹が出る時を察知する力を養うことなしには、こうも写真が撮れるはずはないであろう。さらに言えば、この富良野の気色が虹と実に似合う。都会のビルの上に虹が出ても、これほどの感動は味わえないであろう。緑の山を背景にした虹も美しいが、広がる大地に吸い込まれるような虹、そしてたぶん私が言葉をなくしたのは、雪景色の上にある虹だろう。
 試しに開くだけの価値はある。私のように、心奪われる人は少なくないはずだ。
 高橋真澄さんのウェブサイトもある。ここでは、写真の販売も行われている。ネットもいいが、私は本を探して購入したい。とはいえ、写真の色をインキで印刷するというのは、実は大変な苦労の伴う作業であることを知っている。この本の中でも、印刷ゆえにそれまで気がつかなかった色が実は隠されていたことに気づかされることがある、というふうなことが書いてあった。
 虹について人類が抱いてきた物語や芸術などの背景は、文章担当の方が力を入れて綴ってある。これがまた、写真に似合う形で書かれている。虹の原理や参考文献も豊富である。人類がどんなにすばらしい絵画を描いても、この虹にかなうものはないだろうとさえ思う。その虹は、同じ虹は二度と現れないのだという。一期一会の虹を、こんなに写真で何度も見ることができるというのは、なんという幸いだろう。
 きれいな写真の数々に、感謝したい。




Takapan
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