本

『子供のための苦手科目克服法』

ホンとの本

『子供のための苦手科目克服法』
小林公夫
PHP新書883
\798
2013.10.

 対象は小学生。中学受験を舞台とし、学習上の様々な苦手意識を克服するためのノウハウや考え方がふんだんに紹介されている。新書という制約を考えると、その内容と効果はかなりお得なのではないかと思われる。
 ありがちなアドバイスは、各科目別に章立てしてあり、暗記はどうする、書いて覚えようなどと、誰でも思いつくようなことが書いてあり、あるいはノートをきれいにとる子は伸びるなど、いわばどうでもよいことに頁を費やすものである。が、この本はどうも違う。親の意識を変えようとしているように見える。ターゲットは中学受験をする子の親である。いろろい心理的に、焦りだの心配だのがある。もちろん受験をするのは子供なのだが、小学生の受験というのは、基本的に親の受験である。親がどういうふうにコントロールするかがすべてである。馬の走りよりも騎手の腕である。ところが親のほうが逆効果の考え方をしていると、もうレースどころではない。結果はもちろんのこと、親子関係をだめにしたり、子ども自身を誤った方向に導くことにもなりかねない。それは、親の考え方というものによるのだ。
 まず冒頭から、「点数が悪いから苦手なのではない」ときた。親にはもう点数しか見えない。点数が取れないのは受験に不利であるとの認識から、低い点数を伸ばすことに目を向けるとするなら、それを苦手と呼ぶのは当然でもあるからだ。しかし、実のところそうではない、というところからこの本がスタートする。このようであるから、教育界の実情と子どもの心理、親子関係など全体的なありかたの中で、子どもの受験を包んでいくような視点を提供する。このことの意味は大きい。
 子どもは能率機械ではないのだ。そこには心がある。成長する子ども、人格というものがある。その能力を開花させるというのは、いわばビジネスを成功させる、人の動かし方や育て方にも近い。著者は法学博士。必ずしも教育学という畑にいた人ではない。大人を相手にしても人を育てることをしているようで、そうした大きな見方というのが、子どもに対しても適切に向けられているのではないかと思われる。
 単なるノウハウではない、しかしまた精神論でもない、不思議な香りを漂わせた本である。それは案外、大人も含んだすべての人にとり、有効なアドバイスであるのかもしれない。私たちは、苦手なことの方が多い。ほんの一握りのわずかな事柄に対してだけ、いくらか自信があるという程度の能力しか、私たちは持ち合わせていない。苦手克服という課題は、万人に適用できるものであろう。苦手を克服するというのは、自分の能力が突然高まるのでないとしたら、自分の苦手意識が変わるということにほかならない。そのためにはハウツー式の効果法はないのかもしれないが、メンタルなところから自分の歩みや生き方が力を与えられたとすれば、それでよいはずである。
 だから「子供のための」を外したところにも、使えることがあるのではないか、と私は睨んでいる。




Takapan
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