本

『ねこじま』

ホンとの本

『ねこじま』
関由香
株式会社ブライト出版
\1500
2010.11.

 猫の写真集である。文字は、あとがきに少しあるだけで、ほかには何もない。
 猫たちを、ただ見ているだけでいい。
 ちょっとした猫の視線、そこに表情があるばかりでなく、台詞までが思い浮かぶ。いや、言葉などなくってもいい。猫の行動、そしてその周辺の風景にどうして猫が存在しなければならないというそのありさまに、思い切り拍手を贈りたいと思う。
 これだけの猫の表情や、決定的な瞬間を、撮影するのにはずいぶんな忍耐が必要だっただろうと思われる。
 しかし、この本のタイトルのとおり、ここはまさに猫の島である。小さな島に、人間が百人余り住んでいる。漁業の島である。猫はその魚を時にもらうか奪うかして、くわえて歩く。案外魚をくわえている猫など、サザエさんの歌のほかには知らないような私たちであるが、魚の地ではまさにそれが現実。この写真集の中でも、魚と猫の絵がいくつも見られる。人間よりも猫の数のほうが多いであろうと推測されているが、その中でも猫はかなり人間になついている。これはもう、共存している、と言ったほうがよいかもしれない。いや、流行の言葉として「共生」とでも言うべきか。
 テレビ朝日の人気番組、「シルシルミシル」にも登場した。私はそれを偶然見ていた。猫は本当にコタツで円くなるのか。この疑問に答えるため、そして実証するため、猫がたくさんいるこの島に、スタッフがロケに来たのである。かなり興味津々の猫も多く、コタツにやってくるのだが、コタツの中に入る猫はついに一匹だけであった。あるご婦人がとくに協力してくれて番組でもコーナーを引っ張る役割を果たしていたが、やはり野生の猫ではあるためか、海岸にいきなりコタツがあっても、おいそれと安心することはないのであった。
 この番組の放映が、2011年3月9日であった。
 その2日後、いわゆる東日本大震災が起こった。
 この通称猫島、ほんとうの名は「田代島」というが、この島は、仙台湾にある。牡鹿半島の脇に、松島とに挟まれる線の上にある。女川原発とは半島の反対側だが、きわめて近い。
 まさに、この島は、被災地なのであった。
 離島であるせいもあり、あまり報道されなかった。津波も当然来ている。多くの家が壊滅的打撃を受けた。小さな島とあれば、島全体が津波に呑まれても不思議ではなかった。しかも、お年寄りの多い島民が懸念された。ところが、亡くなったという人がいない。一人の行方が分からなかったが、島外にいたことが後で分かったそうだ。
 あいにく、猫の被害についてはカウントするのが難しい。しかし、その後また元のように猫はやってきた。廃墟となった家々の痕にまた猫がやってきて、誰かいないかとたたずんでいる様が、インターネットで紹介されている。猫に犠牲が出ていたかもしれないけれども、また多くの猫が集まってきたのだった。
 この写真集は、震災前の、貴重な証言となった。この漁業の島もまた、復興を目ざしている。住民には若い力が乏しいが、この猫たちのことは、広く知られている。猫を通じて、助けが興らないものかと多くのファンが願っている。
 がんばろう、日本。その言葉が力になるのであれば、この言葉の中に、猫たちもぜひ招き入れてほしい。復興を、招いてほしい。




Takapan
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