『日本の謎と不思議大全 西日本編』
人文社
\1680
2006.10
オカルト趣味というわけではないが、ちょっとしたミステリーには、人の心が動くものである。
身近な○○池には昔これこれの主がいて……とか、○○トンネルを通ると幽霊が……とか、誰が言い始めたのか知らないが、巷に知れ渡っている共通の「物語」があるものである。
それは、本当かどうか、確かめようがないというものが多いが故に、信用したとしても、罪がないとされる。また、ちょっとそういう話があったほうが、何かと語りぐさになるし、話題に困らない。
もっとうがった見方をすれば、そのような話題作りによって、観光客を呼んだり、村の名が知れ渡ったりと、経済効果さえ見込むことができる。
そうした色気はともかくとして、日本に昔から伝わる有名な話というものは、心得ていて損はない。とくに昨今時代劇が視聴されないとあって、その筋には常識的な言い伝えさえ、伝えられなくなってきているような気がする。
この本は、私にはなじみ深い西日本に限定したものである。東方の人には縁遠いかもしれないが、聞いたことのある話もいろいろ混じっている。
河童とか人魚とかいったもののミイラについては、あちこちに話があることを知っている。福岡県では田主丸町が、町おこしとして、河童すら利用しているわけで、駅舎も河童のデザインときている具合である。
大江山の鬼や、酒呑童子の話は、配偶者の故郷の話で、有名きわまりない。大江山の鬼の資料館は楽しかった。
出雲にも多くの伝説や謂われがあることも、改めて知ったし、四国にも興味深い話が伝わっていることは驚きであった。
何より、各地にさもありなんと伝わる「埋蔵金伝説」がたくさんあることには、歴史の面白味を感じさせてもらった。
福岡県の王塚古墳は、何度か訪問した。その遺跡的価値についても、この本で改めてそうなのか、と感じたことがあった。
松浦佐用姫や鍋島騒動、トンカラリンなどの、よく聞かれるものでありながら内実は知らない、といったものが、概略だけでも紹介されていて、ためになる。
この程度のことは、私たちより上の世代にとっては、常識であったのだ。もちろん常識は時代と共に変化するものだが、何も怠慢から途切れさせることもあるまい。歌舞伎や講談において有名であるというものが、ここらで絶滅しそうである。へたをすると、播州皿屋敷でさえ、知らない人のほうが多くなっているかもしれない。
個人的に私は、鳥取の藤井寺の伝説が心に残った。キリスト伝説でもありそうな話である。
こうした伝説には、歴史に登場しない人々の伊吹が伝えられている。人々がどのような考え方をしてきたかを端的に示す資料であるから、大切にしたいものである。