本

『「悩み」の正体』

ホンとの本

『「悩み」の正体』
香山リカ
岩波新書1068
\735
2007.3

 マスコミにもよく登場し、多くの人と触れあう機会をもつがゆえに、様々な人の側面をよく観察している著者だと感じる。よくぞこれだけ多忙の中で、次々と著書が出せるものかと驚くばかりだが、最近のものの中で、入手しやすい岩波新書のものを紹介してみることにした。
 人にはこんな悩みがある、などと簡単にまとめてしまうような、浅はかな人に限って、自分は世の人の悩みについて深い理解をもっている、などとうぬぼれがちである。著者は、そんなことをしない。実に驚くような悩みが、精神科医である自分のもとに届けられるというのだ。そんな数多くの実例の中から、どうしてなのか、何によるのか、神経を研ぎ澄ませて、かぎ分けようとする。それをしないと、自分もアドバイスができないからだ。
 もとより、アドバイスをするのが精神科医の仕事というわけではない。多くの場合、ただ共感して、患者の言うことを聞く、それだけで患者の救いになるわけである。それにしても、以前から多くの若者の、理解しがたいような悩みを聞き続けてきた末に、また現代は現代の空気に染まった悩みを見出していく。
 すると、以前ならば悩みにもならなかったようなことが、どんどん悩みとして登録されていく様を見て、たんに個人の心の問題に還元しては一向に解決するものではない、ということが明らかになっていくのだという。むしろ、もっと、本当に悩まなければならない問題があるはずであり、そちらの方を悩むことができるような社会にすることは、私たちにはできるのだ、という観点が強められていく。
 それにしても、著者のこのバイタリティには敬服する。そして、何もばっさり世間を斬ったような気持ちにはさらさらなっていない著者の気持ちもまた、悩みのうちにあるだろうことを推測する。ただそれは、本当に悩まなければならない部類には入るだろうと思うので、これからも人の心に隠れたものと時代との関係を、指摘し続けてほしいと願うばかりである。私たちは、それをヒントにして、人々の心について、考えていくことができるのであるから。




Takapan
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