本

『難民問題』

ホンとの本

『難民問題』
墓田桂
中公新書2394
\860+
2016.9.

 2016年現在の、世界の難民状態を知るには恰好の書だと言える。とにかく、いまどういうことが起こっていて、どこの国がどのように対処し、また問題点は何であるのかを、的確に整理しているように思われる。ニュースにも出てこない実情なるものを、いろいろ教えてくれる。そういう背景や歴史があるのか、と思い知る。もちろん、何百年も遡る原理的なことを学術的に伝えようとするものではない。いま現在困惑している人々と、それを受け容れるかどうかという点で議論されている世界の国々の状況と問題点を指摘するのである。
 これは、民族大移動という歴史のひとつであろうと著者は言う。かつてゲルマン民族の大移動があったように、この世紀もまた、後の世には、難民という名での民族大移動であったと記述されるかもしれないのである。
 大戦に対しての反省は人類はもった。しかし、イデオロギーの対立や独裁政府の登場から、そしてまたイスラムの一部の勢力の力による支配も加わり、居場所をなくす万単位の人々があふれてしまった。まだ、殺されなかっただけよいのかもしれないが、居場所を求めて国外へ出て行くしかないとなると、その人々が流入した国側としてどうすればよいのか、がその国にとり問題となるのである。
 人道的配慮は、いまの時代の人の心に突き刺さる。できれば好意的に、人の命を守りたい。子どもが亡くなった報道は、世界の多くの人の心を動かした。だが、だから好意的に全員を迎えることができるのかどうか、またそれが適切であるのかどうか、それはまた別に考えなければならないことである。実際、入られたほうの国々では、入ってきた人のゆえのトラブルを抱えることがある。また、実際上経済的負担は数知れない。
 かつての大戦の反省ということもあろうが、ドイツは積極的に移民や難民を保護してきたのだが、ここへきて積もり積もった負担の問題が、耐えられないほどになってきている。気持ちは助けたいが、実際もうこれ以上はできない、というほどの状況に追い込まれているともいえる。
 そして、日本はどうか。難民認定の極めて厳しい国として日本が知られているが、だが、それは単に冷たいと言えることなのかどうか。著者は、安易に迎え入れることがすべてではない、という立場をとる。つまり、この日本の姿勢は、必ずしも悪いことだとは言えず、現実的な路線として考えていきたい姿勢なのであると考える。この本は、難民受け容れに対して慎重な態度を適切ととる意見を構えている。しかし、強靱にそれを主張しているのではないから、受け容れるべきだという人が読んでも大変読みやすく、問題点を適切に理解することができると考えたほうがよい。非常に参考になる叙述であると私は感じた。




Takapan
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