本

『新 13歳のハローワーク』

ホンとの本

『新 13歳のハローワーク』
村上龍・はまのゆか絵
幻冬舎
\2730
2010.3.

 七年前に、旧版が刊行された。その時にもずいぶん話題になった。こんな本があろうとは、と。
 しかし今や、子どもたちに対して、キャリア教育をすべきだという方針すら現れた。職業ということ、つまりはそのように自分を生かし自分の利益を得るような方法で以て、また社会的に意義ある活動をするということ、そこへの教育が必要だと見なされるようになったのである。だとすれば、この本はかつて、時代に先行していたということになる。あるいはまた、この本が、政治家たちに教育方針を考えさせたと言えるのかもしれない。
 手を抜かない、実に立派な本である。装丁もそうだが、「はじめに」の構え方、目次とその配置へのこだわりが見事である。中学生という多感な時期の子どもが読むための本である。それぞれの職種説明への気配りから、職業への広い観点からの解説コーナーなど、あらゆる社会での要請に応えるべく、内容の濃いものとなっている。大人が読んでもうなるほどだ。いや、自分の仕事のところを開くと、こんなふうではないぞと思うこともあるかもしれないが、これが真実なのだと心を洗われるような場合もあるのではないかと思う。
 時代の変化がある。七年前には存在しなかった分野の職業すらある。また、国や経済の状況が変化した場合もある。あまりに短い期間での改訂だと言えるかもしれないが、やはり必要であったのかもしれない。本としても売りたいという意志があったという可能性もあるが、私は少し思う。この時代は、この本を必要としているか、試しているのではないか、と。
 もしこの本が売れなければ、何かまた、子どもたちの間で変化が生まれている。そして、この国がどういう方向に進もうとしているか、何かまた考えなければならない。もし、この本が売れたならば、あるいは話題に上り活用されていくのであるならば、スタッフが考えた方向にひとつの希望が見られるのではないか、と。
 それから、ここにあるのはやはりあくまでも職業である。人間の活動に不可欠のものであるのは確かであるが、活動は職業がすべてではない。もちろんこの本は職業という観点で意義があり、その役割を十分果たしているのであるが、あくまでもそれは経済の中での生産の要素であり、産業という次元での行為である。
 ボランティアや趣味の領域もある。こうしたプロの職業としては成立していなくても、ある意味でそれに匹敵するような活動をしているアマチュアもいる。天文学における発見が、しばしばそうした素人によってなされていることは有名である。
 また、こうした職業から弾き出された人々や、これら職業の世話を受けることしか当面できない立場の人々もいる。鹿児島県のある市の、自分の異常性にすら気づかない独裁者のように、こうした人は生きている価値がない、とまで言い切る人は珍しいにしても、経済性に目を奪われた人の中には時折、そんな人は社会に要らない、などと考えている場合があるかもしれない。
 職業は、重要だ。だがまた、それは流行りの言葉でいうなら、自己実現のうちの一つに過ぎない。牧師という存在はこの本に取り上げられているが、活動する信徒については触れられることがないのである。
 この職業という窓から、さらに社会を見つめていく、そのように中学生たちの心が開かれていくことを願うばかりである。




Takapan
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