本

『海の民宗像』

ホンとの本

『海の民宗像』
太神美香漫画
宗像市世界遺産登録推進室編著
梓書院
\300+
2015.3.

 殆ど漫画である。絵がさわやかで読みやすい。人間関係も分かりやすい。ひとつひとつは短いエピソードで、混乱もせず、またそのストーリーに感情移入もしやすい。
 つまりは、マンガとしてなかなかの魅力があるのだ。私はほろりとしてしまうところもあったし、キャラがかっこいい、とも思った。
 内容は、宗像――これは他地域の方に、スムーズに読めるものであろうか。「むなかた」と読む。福岡市と北九州市の中間に位置する海辺の町であり、ここから海に漕ぎ出す沖ノ島は、海の正倉院とも呼ばれ、古代の遺跡に満ちた神秘的な孤島である。今なお神事が行われ、古代からの言い伝えを遺しており、歴史的史料が見出されてニュースになることもある。いま、世界遺産への登録が画策されているし、それだけの価値のある区域である。
 ここを舞台に、物語が作られた。副題は「玄界灘の守り神」ということで、沖ノ島との関係が描かれている。もちろん登場するのは架空のキャラクターであるのだが、なかなかよくできている。そこに史実が取り入れられ、歴史的な登場人物も交えられてくる。その点については、巻末にいくらかの解説が載っている。そしてお気づきだと思うが、編著者として、宗像市世界遺産登録推進室という名が挙げられている。これは宗像について知ってほしいという願いから作られた本なのだ。
 そもそもどうして私がこの本を手に取ったのか。書店で見つけたその表紙のマンガの絵がアイキャッチとなった。ほう、マンガか、と言いつつ本をひっくり返し、値段を見たとき、驚いたのだ。300円?――どう考えても600円は下らない体裁のマンガでしょう、と、とたんに気分は購買モードになってしまっていたのだった。
 キリスト者として、こうした神事には関わることがないし、歴史として尊敬はするが、神として拝むようなことをするものではない。だから普通ならばこうしたものに手を出しはしないのだが、地元宗像についていろいろ教えてくれそうだということと、絵の魅力に惹かれて、買うことには迷いはしなかった。
 読んでいくと、確実に引き込まれた。時代が適宜変化し、宗像の時代毎に置かれた状況や事件が交えて描かれる。マンガとしてもよいし、物語としても面白い。これらは、『季刊邪馬台国』という雑誌に、八回にわたり連載されたものだそうである。そして、この一巻で完結する。このコンパクトさもいいが、歴史的なスケールが大きいせいか、決して小さな本であるようには思えない。
 最後に、わりとしっかりした叙述の解説がある。宗像の歴史について、きちんと書かれている。通常、こうした文章を人々は目にするのだろう。だが、私たちはこのマンガで、すっかり感情移入もすませた上で、宗像についていつの間にか知識を得てしまった。その後でこの解説を読むと、実によく分かる。なんと歴史が分かることなのだろう。学習漫画が効果的なわけだ。25頁ほど記述があるが、どうぞマンガの後に、読んで戴きたい。より正確に歴史のことが理解できるし、なによりいきいきと歴史の息吹が伝わってくる。
 気をつけるべきことは、このマンガに記された中には、ひとつの解釈に基づくものがあることだ。だがそれは、この最後の解説を読めば分かる。その代表的なものとして、「ムナカタ」の語源にある。これには諸説あるそうだが、物語においては、そのうちの一つが取り入れられている。また、その説の根拠についても、解説にあるので、読めばそれと分かる。天武天皇の采女となった宗像豪族の娘についても、おそらく物語においてよりは、身分的にさほど重要視されていないのではないかと解説されているから、物語にある美化は歴史的には少し違うかもしれない。しかし、そういうことも解説を読めば納得がいくし、理解もできる。この解説もやはり読んだほうがよいことは間違いない。また、読めるはずだ。
 この本については、さほど宣伝もされていないように思う。私は丸善で見つけたが、偶然に過ぎなかった。もっと宣伝したらどうだろうか。こんなに魅力のあるマンガと内容なのだ。地元福岡の人間だからこそ、宗像についてこんなに分かりやすく教えてくれるものがあるということで、うれしく思うのだ。しかも、この値段。儲かるための出版ではなかったかもしれないが、いやはや、お金はかけなくてもよいから、もっと公的に宣伝してもよいのではないだろうか。もったいないことだと思う。あるいは、こうした宣伝下手だから、お役所仕事はよくないと言われるのかもしれない。amazonの書評など、絶賛しているではないか。私もその絶賛の気持ちが分かる。その書評に共感できるのだ。お役所のサイトに、地味に紹介している場合ではない。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります






 
inserted by FC2 system