本

『明治・大正・昭和のラベル、ロゴ、ポスター』

ホンとの本

『明治・大正・昭和のラベル、ロゴ、ポスター』
廼地戒雄編著
誠文堂新光社
\2730
2008.12

 見るだけで、楽しい。というより、見ることが殆どである。解説のためのまとまった文章というものは、まえがきすら存在しない。あるのは、それぞれの写真についての、年代や意味内容の説明だけである。多少の背景も記してあるものがあるが、多くは年代の情報しかもたないような一言である。実にシンプルな本である。
 サブタイトルに「懐かしい日本のグラフィック・デザインが1000点収録」とある。数えてはいないが、多分1000点あるのだろう。ちょうどかどうか私は知らない。
 メーカー毎に、その代表的な商品のラベルの変遷が見られる。これまでも、たとえば森永のエンゼルの変化などが並べられて示されているというのを、見たことはある。だが、そういうふうにして、様々な会社の様々な商品のデザインの変遷がこれほど集められているというのは、見事である。それも、封を切っていないキャラメルの箱などがあると、いったいどうやってこれをここまで保存していたのだろうか、と不思議にさえ思う。
 個人の所蔵もあるかもしれないが、巻末に、「写真提供」というのがあり、各メーカーの名が列挙されているから、たぶんメーカーの所有する資料なのだろうと思う。それにしても、壮観である。
 思うのだが、それぞれのデザインを見て、懐かしがったり、その斬新さに驚いたり、感心したりして、精神的収穫も多いのであるが、それらをどう頁や本の中に配置するかという、そのデザインもまた、実に見事なのである。見易く、そして退屈しないように適度に変化させて、最後まで並べられている。このディスプレイのデザイン自体に、私は感動する。
 温故知新という言葉がある。CGの華やかさに食傷気味の私たちは、案外こうしたレトロなデザインに新鮮さを感じるものである。しかし、懐古趣味というばかりではなく、デザインには、その時代の人々の息吹があり、喜びがあり、希望というものもあるだろうと思う。ひとの生きた証しがそこにあるとすれば、単純に退けるのは失礼でもあろう。もしかすると、そこに、忘れかけていた大切なものを見出すかもしれない。
 こういうのを、ビジュアルに示せるというのはいい。ひとの思想を押しつけるものではなく、こういうのがあるのだが、とさりげなく提示する。私たちはただそれを受け取り、それを自分のものとし咀嚼し、使っていくことになる。こうした資料を集めてディスプレイしてくれるというのは、文化に貢献する、よい出版なのだろうと考える。決して安くないのでなかなか個人で買おうとしないかもしれないが、たんにデザイン開発企業の棚に並ぶだけではもったいない。多くの人の目に触れてほしいと願う。




Takapan
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