本

『耳がよく聞こえる!ようになる本』

ホンとの本

『耳がよく聞こえる!ようになる本』
中川雅文
河出書房新社
\1300+
2015.12.

 分かりやすそうな本であり、説明である。が、中身はかなり厳しいものがある。恐らくこの本を手にする人は、なんらかの形で、聴力の衰えを自覚している場合が多いだろう。その症状について手厳しいようなことはない。また、著者も誰かを責めるような書き方は何もしていない。しかし、難聴に至る原因のひとつが、イヤホン音楽によるものであることを指摘しているのである。
 このことは、暗黙に多くの医師が理解しており、また一般にも懸念されているものではないかと思われる。しかし、なかなか表向き、この注意が指摘されない。テレビでもっと言えばよいのにと思うが、スポンサーの関係で、営業妨害だと見なされるのではないだろうかと勘ぐってしまう。
 ネットでは、自由な発言ができるせいか、その点についての声が多々出ている。実際に突然に聞こえにくくなり、どうかすると聴力の回復の見込みがないというケースも少なくないらしい。
 当たり前である。電車の中で、音漏れがするほどに大きな音で耳元を絶えず刺激していたら、難聴にならないほうが不思議である。音漏れそのものはイヤホンの構造による場合もあるが、それにしても、外に聞こえるよりも大きな音が耳の直近で鳴り続けているわけである。無事でいるほうが無理というものであろう。
 本は、中高年の方々の手に取りやすいような雰囲気を醸しだしているが、これは若年層にも知られなければなるまい。宣伝に載せられて快適だ、楽しい、と音楽を聞き続けた上で、聞こえない人生が待っていたとあっては、アメリカあたりならば製造社を注意書きが徹底されていないなどと訴訟ものになるのだろうが、日本だとそういうこともなかなかないだろう。
 さて、もちろん難聴は、ヘッドホン難聴には限らない。老化によるものや体質などの背景からなりやすい人も当然いるだろう。しかし、この本の扱いの適切なところは、単なる印象で書き綴っているのではなく、数字的な根拠も示して、説得力をもたせているところである。定義にもよるが、日本人の六人のうちの一人に難聴が疑われている現状をまず指摘する。しかも、それは生活習慣に基づいている場合が多いことが、年齢層の調査で明確であるという。それをどう素人ながらに判断するか、そうした知識もここにある。
 それからようやく、聴力とはどういうことなのか、耳の構造や聞こえのしくみについて解説する。そもそも自分がどうそれと関わるかということを予め提示して理解しておくことによってこそ、こうした構造的説明に関心をもち、また考えるというようになるであろう。
 それだからまた生活の中でどのようなことに気をつけていけば、改善されるのか、また予防されるのか、という説明が活きてくることになる。たんなるノウハウではないところが、医学者の手腕である。よい生活習慣をたくさん並べると、私たちが如何にそれを軽んじているかを痛感する。
 そうして、病気としての難聴の理解に入る。こうなると、実際に診断を下されている人も、その診断がどういう事態のことを言うのであり、また、どう治療・生活していけばよいのかを理解することができる。
 最後に、補聴器のアドバイスである。これも現実的にどうするべきなのか、初めて難聴による苦労を覚えた人には分からない。補聴器は高価なものであるだけに、なるべく自分でも深い理解をしておきたいものであろう。
 このように、親しみやすさもある一方で詳しい知識の入口を示してくれ、またその段取りがなかなかよく考えられていて、類書の中でもひじょうに優れたものであると言えるのではないかと私は思う。とくに、最初にも触れた、音楽機器でどんどん難聴の世界に入って行っているというところは、多くのその利用者に知られなければならない。それにしても、どうしてこの点が強く指摘されないのか、やはり私は不思議に思う。




Takapan
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