本

『仮面ライダー昆虫記』

ホンとの本

『仮面ライダー昆虫記』
稲垣栄洋
実業之日本社
\1470
2003.8

 雑草についての本で、この著者に出合った。その文章の巧さに、脱帽した。筆運びが心憎い。こんなものと比較するのか、と思い、ひたすら「やられた」観がつきまとう。誰もが知っている別のものをひょいともってくるというのは、テクニシャンである。しかも、雑草についての知識も、思わずへぇとうなることばかりなのである。
 その著者が、実は仮面ライダーが大好きであるということは、知らなかった。植物に対して、今度は昆虫。そう、仮面ライダーが昆虫の世界であるということくらいは、私も知ってはいたが、私は、ウルトラマンの世界のほうか好きだった。それで、仮面ライダーについては殆ど知るところがなかったのだが、この本は、そんな私に、なんだか仮面ライダーの全てが分かったような気にさせたのである。
 バッタ、トンボといった、よく言われる歴代ライダーのモチーフ程度の話ではない。これはもう、こじつけではないかというくらいに、あらゆる角度から、その昆虫の特徴や性質についての蘊蓄を傾けつつ、そのライダーにまつわるストーリーや設定を擁護するのである。
 仮面ライダーについてのあらゆる設定が無謬であるものとして、昆虫の知識と結びつけてくるのである。
 世界征服をたくらむショッカーが、どうして幼稚園バスを襲うのか。それにさえ、合理的な説明がなされている。大人を襲ってきても、改造人間の手下としては使えないのだという。すでに人間としての分別があるため、反抗されるかもしれないというのである。それよりは、いたいけな幼児を誘拐して、ショッカー軍団に育てるというほうが、遙かにやりやすく安全である。次の世代を牛耳ることによって、本物の世界征服が実現へ向けて運ぶというのである。
 このことを、サムライアリが、他の蟻の巣を襲い、幼虫や繭を略奪する事実と比して説明するのだから、たまらない。
 五歳の長男とともに、仮面ライダーに明け暮れる著者の姿が、ところどころに見え隠れする。それもまた魅力だ。虫についての、大変な知識がいつの間にか身に付くと同時に、最後は、環境問題の奥深いところに、ちゃんと導いてくれる。
 時代的に、仮面ライダーブラックRXで終わっているのだが、その後のライダーたちについては、昆虫の視点から説明が、はたしてできるのだろうか。早く、それを聞きたくてたまらない。
 ところで、この仮面ライダーの世界を、ありとあらゆる昆虫の知識を動員して正当化しようとしている姿は、まるで、弁神論とはこういうものだと示されているような気持ちもしてくるものだった。考えすぎだろうか。




Takapan
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