『ひつじがすき』
佐々倉実写真・佐々倉裕美文
山と渓谷社
\1680
2008.4
羊飼い。何も知らない私たちは、ロマンチックな響きをそこに感じがちである。聖書にも出て来る。讃美歌に出てくる。羊たちと暮らして、なんとステキな日々……。
とんでもない。あのユダヤでさえ、羊飼いというのは最下層に属すると見なされていたような人々。重労働であり、失敗も多く、律法を守るどころではない、人間ならぬ生活だと軽蔑されていた(もちろんこれは、律法社会という特殊な状況によるのであって、現代において羊飼いという職業に偏見をもつようなことがあってはなりません)ということが分かるが、とにかくその大変なことは、想像以上であろう。
山口県にあったニュージーランド村に、一度行ったことがある。本当に羊飼いをしている青年の指導を受けた。犬笛を買った。後からファンレターを送った。2005年以来、休園状態となっている。
それにしても、羊に魅せられる人はいるもので、私たちも羊を飼うことが夢物語ではないことが分かる。実際に羊を飼うために、飼ってからどうするのかなども網羅した案内書となっているこの本は、決してただのマニア本ではない。
でも、編集についても、本のあちこちに遊び心が満載で、可愛い羊の写真があるばかりでなく、それらが時にコラージュっぽく、楽しくちりばめてあるのも楽しいものである。
羊について、あらゆる角度から語られている。そのどれもが、愛情に満ち、そして羊と実際に暮らしていなければ分からないような息吹の感じられる言葉であるのだ。その意味で、本のタイトルは全く裏切ることがない。
羊の写真の撮り方まで触れられているのだ。ただごとではない。
写真がまた愛らしく、表情があり、語りかけてくるようなものばかり。夫婦で社をなしているというが、元来鉄道カメラマンの夫が、実に効果的に羊を撮影し続ける。
中に「断尾」というのは驚いた。羊は長い尻尾があるのだそうだが、これは糞などで毛を汚すことになるので、生後まもなく尻尾を切ってしまうのだという。しかも、ストレスがないように切るために、断尾リングというものを尾のつけ根に取り付けることによって、半月ほどで自然にぽろりと尻尾が堕ちると聞いて、またびっくり。
尤も、この断尾も習慣に過ぎないとする説もあるらしい。
ほかに、羊飼いのあの杖の取っ手の形は、羊の首をひょいと引っかけるためにあるのだそうで、思わず納得するのであった。
巻末の、羊語事典がまたふるっている。「ようごじてん」と呼ぶのだろうか。
この本をつくるような感覚で、「にんげんがすき」というのが作れたらいいだろうなと思う。愛する人のために、これだけの本をまとめることも、できるだろうか。