本

『図説 キリスト教会建築の歴史』

ホンとの本

『図説 キリスト教会建築の歴史』
中島智章
河出書房新社
\1890
2012.4.

 教会という言葉は、建物を連想させはするが、元来人の共同体を指す言葉である。少なくとも新約聖書ではそのような意味に使われている。今でもキリスト教会の中では、建物のことではないですよ、という説教がしばしば行われている。それで、建物については、会堂と呼ぶことが多い。この本では、それを「教会堂」と呼ぶ約束にしているという。そのことが、最初にきちんと語られている。
 こうした配慮が、本の記述に対する誠実さをよく表している。なにげないようだが、この本はなるほど信頼が置けるものだ、という印象を間違いなく与える。ただ、本のタイトルについては、それを守ってはいないように見える。だが、深く考えていけばそうでもないかもしれない、とも思えるし、そこを考えてみるのも楽しい。しかしこの点で、私の受け取り方などはどうでもよいとしておこう。
 内容は、教会建築に関する専門的なものである。これを入門として、もっと詳しい本に進んでほしい、という願いが巻末に載せられているが、私などから見れば、とんでもない、この本が終始、実に専門的で遠い世界の物語のように見える。
 もとより、関心が薄いのは確かである。これがカトリックの人であれば、また違うであろう。生憎プロテスタント系の私は、会堂そのものに必要以上に深い意味を見出さないし、また要求もしない。話を聞けばすごいなあと思いはするが、もっと知りたいという強い関心はなかなかもてないのである。
 いや、そんなことを言い訳にしてはいけないだろう。ここには人類の建築史における宝物が溢れている。人々が、何を思いながら、どんな思いをこめて、建物という形を築いてきたのか、それを感じ取るゆとりをもちたいものだ。建築物は種類からしてもいろいろあるだろうが、教会堂は、人々の魂の求め、神という至高の存在に対する人間の最高の誠実さを表そうとする場であると見なされたものである。ここに心を注ぎ込まなくて、どこに表すというのか。そういうわけだから、教会建築には、人類の歴史の精神の核心がいかんなくあらわされているものなのだろう。著者もまた、そういう姿勢で、世界中の教会堂を見て、調べ、解説しようとしているのに違いない。
 ヨーロッパの、各時代における建築の理想や思想を解説する。また、そのときの政治的状況にも大いに左右されているわけだから、そういうことにも十分に触れる。ビザンツにおける事情やそこに盛り込まれた考え方が、豊かに示される。一冊あれば、細かな点にも十分手が届くようにできていて、頼もしい。時折聖書の記述からどう活かして会堂が作られているかもよく語られており、分かりやすい。
 ロマネスクからゴシック、ルネサンスを経てバロック、そうして新古典主義かや歴史主義を辿り、今はモダン・ムーヴメントに至っているという変遷の流れが終わりに載せられている。さしあたり、これを私たちはまず見たらいいと思う。それから、それぞれの詳しい内容と背景を見ていくようにすると、頭の中に整理しやすそうだ。
 しょせんヨーロッパに過ぎないかもしれないが、人類文化の豊かな遺産を、私たちは一度素直に味わい、感動したらよいと思う。ただ、カトリックの方にはやはり私は負けてしまうだろうと思うけれども。




Takapan
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