本

『こわいい動物』

ホンとの本

『こわいい動物』
ロアルド・ダール
灰島かり訳
評論社
\945
2006.10.

 古書扱いの棚で見つけたが、これが元々千円ほどするというのは、やはり手が出にくいのではないかと思われた。しかし、丁寧な想定でもあり、「コレクション」と名づけられているシリーズの一冊であるから、法外に高いとは思えない。カラーの挿絵は、絵本感覚でもあり、本としてのそれなりの価値はある。いや、なによりもこの訳者に敬服する。
 というのは、訳した日本語で、洒落や押韻がなされているからだ。当然元の英文でそれがなされており、言葉遊びがふんだんに取り入れられている、子どものためのおはなしであるのだが、それを日本語で、どのようにすれば可能であるのか、私には想像がつかない。巧みな日本語訳におけることば遊びが、果たして原文でどのようになっていたのか、興味津々である。
 内容は、短いおはなしの集まったものである。動物がテーマ。原題では「汚い動物」のようなふうな言葉なのだが、ニュアンスからすれば「がつがつした」「いやーな」なのだと訳者が紹介している。いわゆる「ダーティ」である。しかし、これを訳者は「こわいい」とした。もちろんこんな日本語は普通でない。「こわい」+「かわいい」=「こわいい」なのだそうだ。恐いけれど、どこか可愛いと認めざるをえない、というのは、近年の日本人感覚であるのかもしれないが、それを活かすのもまた訳者の腕の見せ所である。そしてたぶん、その訳が成功して、日本における読者を増やしているのではないかと思われる。
 トップのブタがやはりまず心に残る。いきなり、哲学するブタが登場するのだ。詩のようなリズムとともに、自分が何故生まれてきたのか、問い続けるのである。そして、食べられるためだと気づいたとき、このブタは眠れなくなる。翌朝、飼い主のおやじさんが来たところへ、食われる前に、と思い、このおやじを食ってしまったのだとさ。
 こんな調子で、ワニ、ライオン、サソリ、アリクイ……と続くのだが、最後は普通の動物ではない。「おなかのかいぶつ」とある。少年のおなかの中に、かいぶつがいるのだという。もっとおやつをくれ、などとそいつが言うから食べるんだよ、と少年が言い訳をする。うそおっしゃい、と怒るママが果たしてどうなるか、それは読んでのお楽しみ。ほんとうに私の腹の中にもそいつがいるかのような気がしてきた。
 あの映画「チャーリーとチョコレート工場」の原作の作者による、とぼけた、ふざけた作品であるのだが、子どもにとってばかりでなく、大人もこういう短いものには積極的に触れて、楽しむべきだろう。大暴投がストライクになるような、不思議な感覚を味わうことができるのだ。ちょっと立ち位置を変えるだけで、世の中には別の審理があるのだ、という簡単な事実を体験することができるものである。




Takapan
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