本

『広告の基本がわかる本』

ホンとの本

『広告の基本がわかる本』
波田浩之
日本能率協会マネジメントセンター
\1470
2010.7.

 〜がわかる本、というふれこみが微妙であって、本当によく分かるものもあれば、著者のひとりよがりである場合もある。また、この本の場合のように、ターゲットとなる相手によっては、よくわかるという場合もある。この本は、これから広告業界に入ろうとする学生などが読むに相応しいものであろう。あるいはまた、広告業界に期せずして入ってしまった人や、そういう人と渉外関係を結ぶ企業の社員が知っておけばよいという事柄が集まっているのかもしれない。
 いずれにしても、極めて実際的な現場のための本であるから、なんとなく広告ってどうなっているのかなあ、と思った素人が開いても、全く分からないと言ってよいのではないかと思う。第一、業界用語が多すぎる。平気で、それらが周知のものとして前提されて話が進められていく。もちろん、ある程度の説明が全くないなどとは言わない。だが、えてして、このくらいのことは業界に興味をもつ以上当然知っていなければおかしい、というような姿勢が見え隠れしている。あるいは、そこから説明をしては、この本が目指している内容の説明になかなか入れないために、排除しているのかもしれない。
 内容は大きく5つの章に分けられている。基礎知識と、新たな時代の状況、広告会社の内容、広告の種類、実務における姿、といったふうである。説明は文章が中心。時折図解があるが、四角や楕円が整然と並べられただけの図であり、その図で理解させようというよりは、項目を整理しておこうという程度であるように見える。きわめて抽象的な図であるに等しく、その内容を分かっている人にとっては分かりやすいが、無知な者には理解が難しい。ここにもまた、聞き慣れないカタカナ語が次々ともたらされているからである。
 着目の要点は、広告というものの中に、ネット広告が拡大しているという現状の確認である。テレビは相変わらず大きい意味を締めている。しかし、ネット広告の意味が大きくなっていくことを頭に置くべし、という点が最初に概観される。その上で、広告業の実際が説明される。業界の人は読んでその通りだ当たり前だ、ということになるだろうし、素人には何のことか全く分からないということになるだろう。これから真剣に広告業界に関わる人にとっての、一つの教科書のような役割を果たすのであろうか。
 用語が意味不明と言ったが、配慮がないわけではない。分からないままに頁をめくっていき、最後に驚いた。巻末に、用語集が掲載されているのだ。せっかく索引も用意しているのだから、できれば用語の解説は中の文章に即して置かれていて、さらに調べたい人には索引を置いておけば十分だと思うが、どうだろう。この用語解説は短いながらも簡潔で、用例まで載せるゆとりがあるのだから、この用語解説にまでまた再びカタカナ語が並んでくると、解説自体が読めないということにもなる。いやいや、広告業界に関わるものがそんな言葉を知らないはずはない、という著者のあきれ顔が見えてきそうである。その通りなのだ。だったら、タイトルや表紙の中に、そういうふうに伝わる決定的なものを含ませておけばよかったのだ。「はじめの1冊!」だなどというマークも付いている。だが何の「はじめ」なのかというと、業界に携わる人にとって、である。一般読者が、広告業界について知りたい、と思う要請には応えられないのであるから、業界関係者のためのはじめの1冊であればよかったのだ。せいぜい、「広告業の基本がわかる本」なのではないか。それなら、まだ分かる。現状のにタイトルだと、広告というものは、と興味をもつ一般読者が手にとって戸惑う。実のところ、図書館で手早く手に取った私は、そのようなつもりで手に取ったのだ。
 タイトル一つの付け方で、この本が誰へ向けて書かれているかを示すものである。この本がそれに失敗しているとすれば、タイトルという最大の「広告」において失敗しているのであり、この人の示す「広告」がもしかすると自分本位で曖昧なものになっている、という可能性を感じる。ターゲットを考えて広告を決めていくという基本もきっとあるかと思うが、もしかすると本の題名という最大のところで、それをミスしているのではないか、と意地悪く考えてしまうのである。




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