本

『子どものこころ』

ホンとの本

『子どものこころ』
櫻井茂雄・濱口佳和・向井隆代
有斐閣アルマ
/\2100+
2014.12.

 児童心理学入門という副題があり、大学あたりのテキストとして作られている。「新版」とも付いているが、これは11年前のものを改訂したからである。教育をとりまく情勢は十年で大きく変わった。資料としても一新することが相応しいが、そこから言える事態についても変化が起こっている。社会的に大きく問題になったことを踏まえ、また子どもたちの変化にも対応していくものとして、改訂されたのである。
 確かに、教科書である。深い考察というよりは、とにかく心理学についてのあらゆる項目を紹介するという目的が先立つ。しかも対象は子どもである。心理学のすべてであるとは言えず、本当に子ども、とくにここでは児童を扱うということで、終始している。それでよい。話題を網羅する。深まりや学会の今の関心などが問題なのではない。学生は、子どもの心を考えるときに、何を知っている必要があるのか。そこに特化した教科書であり、そういうものが必要なのだ。
 図表の使い方や、ゴシック体の用い方など、たしかに教科書という雰囲気である。参考文献は各章末にごくわずか挙げられているが、それくらいあればまずは十分である。この参考文献にしても、この十年間で新たなよいものが出てきていることだろう。適切な改訂である。
 注釈は煩瑣になるために本文中には置かれていない。巻末にまとめられているのは、引用された文献と、参考文献の追加であろうか、ここに並んだものは、学生の研究の手がかりに十分なるものであろう。海外の文献も少し入っており、そういう刺激はたしかにあればよいものだと思う。専門的すぎず、しかしなお入門であるにしても、たしかな門を提供するという目的で編まれたこういうシリーズは、たいへん有用である。ひとつの指針が、学問には必要である。癖のあるものは、訳を知った者には面白いが、初学者は戸惑う。まずは無難なレールというものが必要なのである。
 さて、子どもの心理については、報道機関やマスコミも非常に関心があると言ってよい。とくにこれが、何か子どもの手によるショッキングな事件が起きた場合に顕著である。だが、それを以て興味のすべてとするわけにはゆかない1000もの背景があってこそ一つの事件が起こるなどという推定もあるが、子どもの事件の背後には、数えきれない子どもたちの心の喘ぎや苦悩がある。私たちは、多くの日常的な子どもたちの心に注目しなければならない。あまりに日常的になりすぎて大人が感知できなくなったような事柄について、気づくことが、大人の、そしてこれから大人としてやっていく学生たちの責任である。
 そう。この本へのもうひとつ欲張った要求としては、若い世代でなく、大人がこの子どもたちにどう重荷を負っていくのか、大人が何を子どもたちに対してしてきてしまったのか、という反省である。子どもたちの現象は網羅されていると言えるが、子どもは社会において子どもだけで生きているのではない。その子どもたちは、大人が、私たちが生み出し、つくり、育ててきたのである。教科書にそれを要求するのは無理な話なのだが、学生たちが、このテキストから、自分が育まれた環境を知ると共に、自分が今度は育んでいく主体であるという責任感をどのように抱くか、そこに、大学教育への期待を感じるのである。
 なお、巻末の索引も素朴だがきちんとできており、昔と違いハードカバーではないあたりなど、テキストとしても小回りが利くようになっている。地味な出版かもしれないが、出版社にもこのような良心的な書を、続けて発行するようであってほしい。




Takapan
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